『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』

プロ球団の監督時代とは一線を画した野村克也 中学球児には「褒めて伸ばす」指導法を選択

長谷川晶一
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【写真は共同】

 野村克也がプロ野球界で名将と呼ばれる以前、中学野球で指揮を執っていたことをどれくらいの人がご存じだろうか? そのチーム「港東ムース」はとてつもなく強く、未だ破られていない全国4連覇を果たしている。野村は中学生をどのように導いたのか? そこには、ID野球の原型ともいえる教えがあった――。『名将前夜 生涯一監督・野村克也の原点』から、一部抜粋して公開します。

河川敷で放った、野村の連続ホームラン

 目黒東リトルで克則とチームメイトだった稲坂祐史は興奮していた。

 チーム内のゴタゴタによる分裂劇で誕生した港東ムースという新たな所属先が、自分の想像以上に強豪チームとなる可能性を秘めていたからだ。元々、チーム成績は低迷していた。低迷していたからこそ、監督の指導方針や、采配、起用方法に対して保護者からの不満が爆発したのだった。

 しかし、今回のチームは「あの野村克也」が監督を務めるという。

 現役時代には、王貞治に次ぐ歴代2位となるホームランを放ち、南海ホークスではプレーイングマネージャーとしてリーグ優勝経験を誇る実力者だ。テレビ解説における「野村スコープ」でおなじみのあの人が自分たちの監督となるのだ。祐史の胸は高鳴っていた。

 彼が決定的に野村に対する信頼感を強めたのは、多摩川グラウンドで野村の神がかり的なバッティングを見たときだった。チームができてすぐ、野村は選手たちに言った。

「いいか、バッティングの見本を見せてやる」

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著者プロフィール

1970年5月13日生まれ。早稲田大学商学部卒。出版社勤務を経て2003年にノンフィクションライターに。05年よりプロ野球12球団すべてのファンクラブに入会し続ける、世界でただひとりの「12球団ファンクラブ評論家(R)」。著書に『いつも、気づけば神宮に東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)、『詰むや、詰まざるや 森・西武 vs 野村・ヤクルトの2年間』(インプレス)、『生と性が交錯する街 新宿二丁目』(角川新書)、『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社)ほか多数。

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