大阪桐蔭の大黒柱・前田悠伍の決意 前だけを見つめてさらなる進化を

沢井史

大一番で快投を見せてきた前田。しかし、本人としては決して納得のいく出来ではなかった 【写真は共同】

実はもがき苦しんでいた昨秋の投球

 今年の高校3年生世代を引っ張る投手として1年秋から注目を浴びてきた大阪桐蔭・前田悠伍(3年)は、昨秋、もがき苦しんでいた。全公式戦15試合中、12試合に登板。現チームでは主将という役目も増えた。もともと高かった期待度がさらに跳ね上がった昨秋は、前田にとって歯がゆい場面が数え切れないほどあったのではないだろうか。

「1年生の時は初めてのマウンドで自分を出すことだけを考えていたけれど、チームの為にという気持ちが強すぎて、自分のことばかりを考えられませんでした。最終的に自分が悪くてもチームが勝てばいいと思っていましたが、自分のピッチングができていない試合の方が多かったですね」

 9月28日の府大会5回戦では東海大大阪仰星戦で15奪三振の快投を見せ、国体を挟んで10月12日に行われた決勝の履正社戦でも、13個の三振を奪って完封。さらに近畿大会決勝では勢いに乗る報徳学園を3安打完封と、ここという試合で本領を発揮できたのはさすがだった。それでも前田は満足げな表情は全く見せなかった。 

「春や夏に比べて、秋は立ち上がりが悪かったです。アップがちゃんとできなかったのもあるんですけれど、集中力が散漫だったのもあります。コントロールもアバウトでしたし、フォームも安定していませんでした。自分のマックスの持っていき方があると思うんですけれど、それがなかなかできなくて。

 自分のことに集中しようとしても、チームの空気が緩んでいたら自分がその空気を張り詰めさせるためにやることもあります。投げている時もバックへの声掛けや目配りもしないといけない。キャプテンなので、それは普通と言えばそうなんですが、そういうことを当たり前にやらないといけなかったので……」

苦しみの中でも生きた「あふれるほどの経験値」

 早い段階から注目される選手には、重圧はつきもの。最上級生、主将という肩書きが増えるとなおさらだ。だが、前田には他の投手にはない、両手でもあふれるほどの経験値が何よりの武器となっている。

「1年生から投げさせてもらってきて、それが生きていることはたくさんあります。特に1年の秋から公式戦で履正社とは4回も対戦させてもらっているのですが、やっぱり履正社戦は特別ですね。決勝で対戦することが決まる直前から、自分が投げるんやろうなというのはある程度覚悟してきたので、そこから履正社のことしか考えず、(過去の4試合いずれも)気持ちの面では良い方向に持っていけたので、良い結果が出たと思います」
 
 とはいえ、今年の履正社は前チームからの経験者が多く、多彩な打者が並ぶ。対戦していて、やっぱり一番嫌なのでは…と聞くと「嫌ですよ」と苦笑いを浮かべ、こう続けた。

「履正社は何度も対戦しているのもありますが、履正社に勝たないと甲子園に行けないというのはあるので、絶対に負けたくない思いが一番強いです。特に(1番を打つ)西稜太は塁に出したくないですし、一番しぶとい。(2番を打つ)森沢拓海もそうです」

 そんな相手も13奪三振で圧倒し、府大会決勝で手応えをつかみつつあった。だが、近畿大会の初戦まで約2週間の時間が空いたことが、前田にとってマイナスに働いたという。

「せっかく固まりつつあったフォームが(2週間空いて)ばらけてしまって…。しっくりしていない中で投げて、何でごまかしていこうかとか、そんなことばかり考えながら投げていました」

 初戦の神戸国際大付戦では、初回に満塁弾で先制するも、3回に2点を返され、8回にさらに1点を奪われ計3失点完投。だが、準々決勝の彦根総合戦では初回に3者連続で四球を与える場面もあった。実は紀三井寺球場のマウンドがなかなかしっくり来ず、体のバランスを崩していたのだ。ただでさえフォームが不安定な中、不安を抱えながら投げ続けてきたが、決勝の報徳学園戦ではそれを修正して圧巻のピッチングを見せたのだから、さすがとしか言いようがない。

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著者プロフィール

大阪市在住。『報知高校野球』をはじめ『ホームラン』『ベースボールマガジン』などに寄稿。西日本、北信越を中心に取材活動を続けている。

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