ピッチングニンジャがWBCの注目投手を分析 「お気に入り」の大谷翔平にかける願いとは?

丹羽政善

ピッチングニンジャことロブ・フリードマンさんは、ひたすら大谷(写真)について熱く語った 【Photo by Koji Watanabe - SAMURAI JAPAN/SAMURAI JAPAN via Getty Images】

 いまやすっかりメジャーリーグの投球分析家として日本でもお馴染みになったピッチングニンジャことロブ・フリードマンさん。2つの映像を重ね合わせるオーバーレイという手法で、リリースポイントを含めたフォームの再現性や、球種による軌道の違いなどをわかりやすく示した。彼自身、「オーバーレイをやってみて分かることは少なくなかった」と振り返る。

 元々は、野球の素人。息子が野球を始め、投手となったことで、分析にのめり込んでいった。

「本職は弁護士だが、いまはパートナーに任せ、どっぷり野球にハマっている。シーズン中は、弁護士の仕事よりも忙しい(笑)」

 専門は権利関係。IT関係の会社をクライアントに持ち、IPアドレスのコンセプトも彼らが考え出したという。とはいえ、映像編集などはすべて独学。「誰もやっている人がいなかったから、すべて自分で試行錯誤して、ここまで来た」

 そのフリードマンさんには今回、日本の注目投手だけでなく、アメリカ、ドミニカ共和国など、強豪国の投手力を分析してもらった。各国がどんな編成で大会に臨もうとしているのか。その特徴は? ロースター発表を待って、じっくり話を聞いた。

デビン・ウィリアムズのチェンジアップは打てない

フリードマンさんはブルワーズのデビン・ウィリアムズ(写真)について「対戦したことがなければ、あのチェンジアップは打てない」と断言 【Photo by Dustin Bradford/Getty Images】

 まず、米国から。フリードマンさんは「先発もいいが、リリーフの層が厚い」と評価した。なぜ、そういう構成になったのか。裏には、各球団の本音が透ける。

「どのチームもあまり長く投げて欲しくないと思っている」

 選手が「出たい」と言えば、球団は「NO」とは言えないことになっている。とはいえ、この時期に長いイニングを投げて体に大きな負荷がかかると、シーズンに影響が出かねない。出場を許可はするが、「無理しないでくれ」となり、先発を早め早めに代え、リリーフで補っていくことになる。そのためにこうした編成になっていると指摘する。

 もっとも、それも戦い方の一つだ。

「実績のあるクローザーらに1イニングずついかせてもいい。メンバーからは、そういう戦い方が想定できる」

 昨季67試合に登板し防御率が1.56だったジェイソン・アダム(レイズ)。大舞台での経験が豊富で、昨年のプレーオフでは10試合に登板し、防御率0.00だったライアン・プレスリー(アストロズ)らがメンバー入りしたが、フリードマンさんが注目するのは、ブルワーズのデビン・ウィリアムズだ。

 過去2シーズンは、計123試合に登板し、防御率2.20。フリードマンさんは「対戦したことがなければ、あのチェンジアップは打てない」と断じる。独特の軌道を描くそのチェンジアップをフリードマンさんは「エア・ベンダー」と名付けたが、「普段対戦している投手でも打てない。世界最高の球」と形容した。またウィリアムズは、大舞台や国のために戦うことを意気に感じる性格だそう。「彼はこの大会で切り札のような存在になるのではないか」。

 ベネズエラの投手陣に関しては、「ヘスス・ルサルド(マーリンズ)に注目してほしい」と25歳の左腕の名を挙げた。

「彼は今年、必ずブレイクする。未完成だが、すごい球を投げる」

 ルサルドは昨季、18試合に先発すると、4勝7敗ながら、防御率3.32。100回1/3を投げて120三振を奪っている。後半は12試合に先発すると、防御率3.03。71回1/3で79三振をマークした。真っすぐの平均球速は96マイルで、最速は100マイル近くに達する。どの試合に先発するかわからないが、今大会で最強打線と評判のドミニカ共和国を相手に先発しても、彼らを封じるポテンシャルがある。

「彼にとってはステップアップのチャンス。彼がいかにすごいかまだみんな気づいていないが、それを世界に示すことになるだろう」

 他には、体を揺り動かす変速モーションで知られるルイス・ガルシア(アストロズ)、マーリンズからツインズにトレードされ前田健太とチームメートになったパブロ・ロペスらを注目選手としてピックアップし、抑えではカッターとツーシームがともに100マイル近い球速を誇るホセ・アルバラド(フィリーズ)をキーマンに挙げた。「彼のカッターとスライダーは簡単に攻略できない」。

 プエルトリコについては、ホセ・ベリオス(ブルージェイズ)の復活に期待を込めた。

「去年は彼らしくなかったからこの大会は重要だ。いいピッチングをして自信を取り戻せばいい流れでシーズンに入れる」

 昨季は32に試合に先発し12勝7敗だったが、防御率は5.23。デビュー以来最低の数字が並んだ。ただ、大きく縦に割れるカーブはメジャーでも屈指。「彼の大ファンだ」というフリードマンさんは、「彼はまだ、終わっていない」と主張する。WBCが復活への道しるべとなるかどうか。

 続いて期待するのが、前回は米国代表で参加し、金メダルを獲得したマーカス・ストローマン(カブス)。「彼とは、かなり前から交流してきた」そうで、「彼はこういう舞台が大好き。また、格下に見られているときのほうが力を発揮するから、番狂わせを狙っているのではないか」と心情を読み解いた。メジャーでも実績があり、1次ラウンドで同組のドミニカ共和国、ベネズエラにとっては、彼が先発してくるなら手強い。球数制限に達して降板するまでは苦しめられそう。

 プエルトリコとしては、リードして終盤を迎えたい。そうすれば彼らのペース。フリードマンさんも、「終盤にディアズ兄弟が出てきたら、相手にはやっかい」と展開を読む。

 特に兄のエドウィン・ディアス(メッツ)はメジャー屈指のクローザーで、やや横から投げる100マイルを超える真っすぐは、実際の球速以上に速く感じられ、「彼とは、誰も対戦したくない」とのこと。大谷翔平も過去、ディアズとは4度対戦し、4三振だ。

「ディアスはリーグ屈指のクローザー。リードしてブルペンに繋がれたら、(相手は)負けを覚悟しなければならないのでないか」

1/3ページ

著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント