ピッチングニンジャがWBCの注目投手を分析 「お気に入り」の大谷翔平にかける願いとは?
強力打線のドミニカは「リリーフもモンスター級」
昨年登板過多だったサンディ・アルカンタラ(写真)のWBC出場を、フリードマンさんは心配している 【Photo by Eric Espada/Getty Images】
先発の軸はマーリンズのサンディ・アルカンタラ(昨季ナ・リーグサイ・ヤング賞)ということになるが、「本音では、あまり彼に投げてほしくなかった」とフリードマンさんはいう。「去年あれだけ投げたから、リカバリーの時間が必要」。マーリンズがポストシーズンに進むことはなかったが、リーグ最多の228回2/3を投げた。その前年も205回2/3を投げており、WBCでも勝ち進んでイニング数がかさめば、シーズンに影響しうる。
しかし、彼にとって母国のために戦うことは誇り。「決勝で登板したら最高の投球を見せるだろう」。その決勝では日本と戦う可能性があるが、アルカンタラが先発するなら村上宗隆(ヤクルト)ら日本の打線は世界のトップに触れることになる。
昨年のワールドシリーズで活躍したクリスチャン・ハビエル(アストロズ)も出場メンバーに登録された。彼については「物静かだから目立たない」というものの、「成績を見てみんな驚く」とフリードマンさん。たしかに、フォーシームの平均球速は94マイル。回転数も2354(分)で平凡。しかし、空振り率は27.3%を誇る。彼の場合、VAA(バーティカル・アプローチ・アングル)が特徴的。球がどのくらいの角度でホームプレートに達するのか。全くのフラットなら0度だが、ハビアーの場合、昨年は−4.1°。21年のメジャー平均が−5°なので、打者にはホップしていると見えるのではないか。ちなみにややサイド気味から投げるジョシュ・ヘイダー(ブルワーズ)は-3.8°。彼のツーシームもまた浮き上がると言われるが、それらは数値で証明されている。
やや脱線したが、先発にはメジャーを代表するそんな彼らがいて、リリーフについては、「“モンスター”のようなメンバーが揃った」と形容した。
「ブルペンには、ブライアン・アブレイユ、モンテロ、ソト、100マイルを投げるルイス・ガルシアもいて、すごいメンバーだ」
アストロズのアブレイユは昨年のプレーオフで1点も許さなかった。昨季、同チームでセットアッパーの一角を担ったラファエル・モンテロも復活。71試合に登板すると、14セーブ、防御率2.37。ポストシーズンでも10試合に登板し、防御率1.93と安定していた。アストロズのヘクター・ネリス、昨季30セーブをマークし、フィリーズへ移籍したグレゴリー・ソトも実績十分。ドミニカ共和国の投手陣は、先発とリリーフのバランスがよく、質、量ともに豊富。打線も参加国では屈指で、フリードマンさんが「最後まで残るんじゃないのか」と予想するのも当然か。
ピッチングニンジャが評する山本と佐々木
フリードマンさんは「1日じゅう見ていても飽きない」と山本由伸(写真)を絶賛 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】
山本の場合、真っすぐは90マイル台後半を記録。鋭いスプリットもあるが、フリードマンさんはカーブに注目している。「あのカーブの軌道は、世界でも珍しい。ヨーヨーのように投げる彼のカーブは類を見ない」。
彼のピッチングは「1日じゅう見ていても飽きない」そうで、WBCはもちろん、早ければ来年ともいわれるメジャーへの挑戦を楽しみにしているとのことである。
佐々木朗希(ロッテ)については、「誰よりも伸びしろを感じる」とフリードマンさんの目に映る。
「彼はもはや実績があるからプロスペクトではないが、世界でもっとも潜在能力が高い」
メジャーにはハンター・グリーン(レッズ)という常時100マイルを投げる23歳の若い投手もいて、フリードマンさんも「グリーンのスライダーと佐々木のフォークはともに素晴らしい」と評価したが、「佐々木の真っすぐとフォークのコンビネーションは、グリーンの真っすぐ/スライダーよりも上」と断言した。
「グリーンの伸びしろもすごいが、再現性では佐々木に及ばない」
佐々木といえばフォークの落差の大きさでも知られるが、フリードマンさんは、「彼を見ていて、ピッチングはアートだということに気付かされた」とも話す。
どういうことか?
「他の日本人投手にもいえることだが、スプリットの使い方がアメリカよりも芸術的だ」
その理由としてこんな誤解を挙げた。
「アメリカではスプリットはケガにつながると恐れられている。そんなことはないのだが、そのために後手に回った」
フォーク/スプリットは日本で独自の進化を遂げた。しかし、アメリカでは故障を招くという誤解が広がり、時間が止まった。その差がいま、現れていると映る。
「スプリットが日本全体のレベルを引き上げている」
さて、その投球のアート的な側面を誰よりも体現しているのは、ダルビッシュ有だという。