柿谷曜一朗がJ2徳島で見せている新境地 スペイン人監督が評価する“意外な”ポイントは?

大島和人

過去と今を比べて

柿谷はC大阪時代の2013年にキャリアハイの21得点を記録した 【(C)J.LEAGUE】

 近年の徳島はリカルド・ロドリゲス、ダニエル・ポヤトスとスペイン人の若手指導者が指揮を執り、緻密で質の高いサッカーを見せている。今季はポヤトス監督がガンバ大阪に移ったことでラバイン新監督に変わったが、「超組織的」なスタイルに変わりはない。

 柿谷は新加入ながら、そんなチームで役割をみつけ、充実した日々を送っている。彼はこう口にする。

「色んなオプションを持ちながらトレーニングをしてきて、どんな状況でも臨機応変に対応できる選手、システムが揃っています。個人的にもポジションがどこであれ、しっかりボールを引き出して前に運べます。前線も若くて生きのいい選手がいますから、素早くそこにボールを付けてあげるのが仕事だと思います。なおかつ自分がそのままゴール前に入っていくっていうのも続けてやっていきたい」

 筆者が知る柿谷とは随分とプレーが違う。そう水を向けると、軽く笑みを浮かべてこう振り返ってくれた。

「監督次第ですかね。10年前、僕がそのセレッソにいるときは『ハーフウェイラインより(自陣側に)戻るな』と本当に言われていましたから。(若手時代に)徳島にいるときは美濃部(直彦)さんから左サイドで『できないことをやれ』と言われて、頭より体を動かせという感じでした」

 昨季まで2シーズンを過ごした名古屋では、FWで起用されつつマッシモ・フィッカデンティ監督や長谷川健太監督に守備のタスクを要求されていた。一言でベテランといっても全員が新たな役割に順応できるわけではないし、リーダーになれるわけでもない。しかし柿谷は“いい年齢の取り方”ができている。

「頭が良くなる」サッカーの中で

 柿谷は徳島のスタイルについて、こう説明する。

「GKがあれだけビルドアップに参加するので、常に1人多い状況でボールを支配している感じですね。1人ひとりが適切的確なポジションを取って、相手がボールを取りにこれないようにして、なおかつスピーディーにゴールを狙いに行くーー。センターバックから1本のパスでもいいですし、色んなオプションの練習をしています」

 徳島への復帰は、彼にとって刺激になっているようだ。

「これだけ戦術のしっかりした監督、コーチングスタッフがいる中で、相手を分析しながら1個1個崩していくチームで戦うのは、本当に新鮮です。やっていてうまくいかないことも多々ありますけど、若い選手からすると、サッカーの頭が良くなるのではないかなと思います」

 精密なサッカーを組み上げようとすれば、時間も必要になる。今季の徳島も開幕からの2試合で勝ち点1だから、決して好スタートではない。戦術が浸透し切らず、内容が不安定となりやすい序盤戦にチームが踏みとどまるための“プラスアルファ”は、ベテランの大切な役割だろう。

 柿谷はベテランの役割について、こう言葉にしてくれた。

「どれだけ練習でできても、試合でビビってしまったり、試合で一歩遅れてしまったりすると、(悪い)結果につながってしまう。そういうのを僕たち経験ある人間がカバーして、試合を勝たせてあげないといけません。まだ2試合なので、全て『このときはこう』と全員が理解しながらやることは無理ですけど、試合をやりつつ、やっぱり意思が合っているなって感じる部分も数々出てきています。『今は内容より結果』ってよく言いますけど、内容に結果がしっかりついてこさせられるように、意識したいです」

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著者プロフィール

1976年に神奈川県で出生し、育ちは埼玉。現在は東京都北区に在住する。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れ、世界中のスポーツと接する機会を得た。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を開始。取材対象はバスケットボールやサッカー、野球、ラグビー、ハンドボールと幅広い。2021年1月『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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