連載:愛されて、勝つ 川崎フロンターレ「365日まちクラブ」の作り方

日本一高いハードルを越えていけ 脇坂泰斗が川崎フロンターレで抱いた決意

原田大輔
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脇坂は2023年で在籍6シーズン目を迎えている 【(C)川崎フロンターレ 】

 トップチームの選手として川崎フロンターレに戻ってきた2018年、リーグ連覇を目指すチームは、新加入選手も錚々たる顔ぶれだった。

 FC東京から、FW大久保嘉人が2シーズンぶりに復帰を果たした。さらに、横浜F・マリノスからはMF齋藤学、鹿島アントラーズからはFW赤﨑秀平が加入した。湘南ベルマーレからは下田北斗、モンテディオ山形から鈴木雄斗、さらに脇坂の同世代では、流通経済大学から守田英正が加わった。

 改めてその顔ぶれを見た新体制発表会見では「一から頑張ろう」と身が引き締まった。
 U-18で培った技術と、大学で養った自信もあり、脇坂の言葉を借りると、練習は「そつなくやれていた」。

 ただし、プロ1年目の2018年は、リーグ戦の出場がゼロに終わった。「このままでは試合に出るのは難しいな」とも感じていた。

「体力的にもフィジカル的にも自分は足りていないと実感していました」

 同期の守田が開幕戦から途中出場を果たすなど、着実に存在感を示していたため、はやる気持ちもあった。そんななかで、脇坂は決意した。

「このまま続けていても、きっとなにも変わらない。目の前の試合に出場することを目指すのは、一度やめよう」

 脇坂が目を向けたのは、自分に足りないと感じている部分だった。選手は往々にして、試合前日は翌日の試合を考慮して、トレーニングの負荷を下げる傾向にある。だが、自分は試合のメンバーに選ばれる選手ではないと、冷静に省みた脇坂は、試合前日であっても、フィジカルトレーニングを行い、身体を強化した。日々の練習後も、残って筋力トレーニングに励み、欠点や弱点の克服に努めた。もちろん、日本一になったチームでも通用する技術をさらに高めつつ……。

 そうした取り組みにより、自身の身体に変化を感じるようになったのは、夏を過ぎてからだった。苦手だと感じていた“強さ”が身についたことで、練習試合では得点、アシストと目に見える結果を残せるようになったのだ。

 練習試合をよく見てくれていた強化本部長の庄子からも声をかけられた。

「泰斗は、(練習場のある)麻生の得点王だな」

 練習でも、シーズン当初とは違った感覚を得ることができていた。今度はそれを実践の場=公式戦で試すだけだった。

期限付き移籍の提案に首を横に振る

 それでも簡単に出場機会は巡ってこなかった。川崎フロンターレが4-2-3-1システムを採用して明治安田生命J1リーグで連覇を成し遂げた当時、トップ下を主戦場とする脇坂が、ポジションを争っていたのはクラブのレジェンドである中村憲剛だった。

 そのころのインタビューで脇坂が語ってくれた言葉は、今も強烈に脳裏に刻まれている。
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著者プロフィール

1977年、東京都生まれ。『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めた後、2008年に独立。編集プロダクション「SCエディトリアル」を立ち上げ、書籍・雑誌の編集・執筆を行っている。ぴあ刊行の『FOOTBALL PEOPLE』シリーズやTAC出版刊行の『ワールドカップ観戦ガイド完全版』などを監修。Jリーグの取材も精力的に行っており、各クラブのオフィシャルメディアをはじめ、さまざまな媒体に記事を寄稿している。

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