今なおプレーの「幅」を広げる驚異のベテラン 古川孝敏が秋田に与えるインパクト
貪欲な個人練習が結果に結びつく
ブラスウェルコーチはそう分析する。古川は完全にベテランと言われる年齢だし、長いドリブルを突く、スピードで相手を振り切るタイプではない。ただし一歩目で相手を出し抜く、寄せてくる相手をいなすような“判断の伴った技術”は抜群だ。30代半ばになってもコーチに特別メニューを要求する貪欲な姿勢で、少しずつ使える武器を増やしてきた。
ヒゲと笑顔がチャーミングな35歳はこう口にする。
「今持っているものの中で、自分の幅を広げたいと思っています。成熟度を上げる部分もありながらも、少しずつプレーの幅を広げて、もっともっと上手くなりたいという思いです。練習の後などでお願いをして、長くはやらないんですけども、ポイントだけ教えてもらったりして、少しずつ自分が良くなっていけるようにすることは常に心がけています」
他の選手の意識を引き上げる
「古川選手が準備をすごくしっかりやるので、他の選手もその意識は上がりました。最年長の選手が一番ストイックにやって、練習に多分一番早く来て一番遅く出る。自分の体に対して、一番向き合っていると思います。チームとしても、僕自身も、めちゃめちゃ影響を受けています」
古川が秋田に加入して、今季は4シーズン目だ。強豪クラブで中身の濃いキャリアを積んでいた実力者とはいえ秋田は少しクセのある、強度の高い守備戦術が浸透したチーム。そこに30代の選手が加わってフィットするのか、少し不安に感じたことを思い出す。しかし彼は想像以上に北の新天地へ適応し、攻撃面でもコンスタントに結果を残している。
秋田のホームゲームには選手の入場時にブースターが「県民歌」を斉唱するルーティーンがある。コロナ禍で中止されていたものの、1月21日の大阪戦から(一定の制限はあるものの)それが復活した。コートに整列した古川も、思いを込めて県民歌を歌っている様子だった。
「無観客試合があったり、50%(の観客制限)もあったり、色んな状況の中で試合してきました。色々ありましたけど、その中でも多くのファンの方に支えてもらいましたし、皆さんのおかげで僕らは戦ってこれた。(県民歌は)秋田らしさというか、みんなの思いをアピールできる、表現できる一つのものだと思います。僕も歌っていてやっぱり『ようやくこうできるようになったな』と改めて実感しましたし、すごくエネルギーをもらった感じがしました」
ブースターからも愛されて
「そういうふうに思っていただけることが何よりも嬉しいし、選手として何よりもありがたいです。そう言ってくださる皆さんのためにも、自分たちができることを最大限に発揮して、引き続き皆さんのため、秋田のためにプレーし続けられたらなと思います」
もちろん、選手やブースターの願いが常に叶うわけではない。古川の秋田永住となると、それは無理な相談かもしれない。東地区には強力なライバルがいて、秋田が2シーズン連続のチャンピオンシップ出場を果たすためには大幅なステップアップも必要だ。
ただ、大切なのは結果よりもそのプロセスかもしれない。選手とチームが同じ思いを持って、それを全力でコートにぶつけている。「おじさん」がちょっとでも上達しようと、日々貪欲にバスケットボールへ取り組んでいる。そんな幸せな日常があるだけでも、Bリーグとハピネッツの存在には価値があるはずだ。