最高峰NFLを狙うアマ横綱・花田秀虎も参戦 全日本選抜が“ドリームボウル”で米アイビーリーグチームと激突

永塚和志

アマ横綱・花田秀虎(写真中央)の参加に注目が集まる 【永塚和志】

 1月22日、全日本選抜チームと米アイビーリーグ選抜によるアメリカンフットボールの親善試合「Japan U.S. Dream Bowl」(以下、ドリームボウル)が行われる。新しくなった国立競技場で開催される同競技の試合はこれが初めてだ。

 今回のドリームボウルは国内Xリーグでプレーする外国人選手も数名加わるため厳密な意味での日本代表ではないが、先日発表された60名の出場メンバーの中でひときわ、注目度の高い男がいる。

 2020年の全日本相撲選手権で、史上2人目の大学1年生として優勝。19歳でアマチュア横綱となった花田秀虎だ。

相撲界の「宝」がアメフトで初の国際試合に出場

 相撲界の宝とも言われる逸材が最高峰・NFL入りを目指し、アメフトに専念すべく日本体育大学を休学。昨夏から社会人・Xリーグ王者の富士通フロンティアーズや法政大学などの練習に参加している。

 他競技から参加する「クロスオーバーアスリート」枠で今回のドリームボウルに臨む彼にとって、出場すればこの国際試合が初の実戦となる。

「楽しかったですね。初めてチームに入ってちゃんとしたアメフトっていうものをやらせてもらって。図面では全部覚えてきたものが、いざパッと(フィールドに)入って、周りがいてサイン(あらかじめ決められた動きをするためチームに共有されるもの。プレーコールと呼ばれることが多い)を見て動くと、なんだか頭が真っ白になっちゃうなというのはありました。でもこれがフットボールだなっていうのは感じることはできたので、面白かったですね」

 試合へ向けての公開練習で、21歳となった花田は、若者らしい屈託のない笑顔でそう話した。

 身長185センチ、体重130キロの花田が担うのはディフェンシブタックル(DT)というディフェンスの最前線にあたる守備ラインの内側を守るポジションだ。このポジションでは相手攻撃ラインの選手とぶつかり合いながら、攻撃の司令塔であるクォーターバック(QB)に突進してパスを邪魔したり、ランニングバック(RB)によるランプレーを止める役割が求められる。

 相撲をやっていた花田にとってはもっとも適したポジションであるのは間違いないが、いざやってみると勝手が違うところも感じているようだ。

「まだフットボールをやったことがなかったときは相撲に近い動きとかあるなあと思ってたんですけど、やっぱりぜんぜん違いますね。相撲は1対1ですしサインとかないですし(守備ラインの後方にいる)ラインバッカー(LB)との連携もないですし」

アメフト界が花田の挑戦を後押し

花田は相撲と違う動きにも適応しつつある 【永塚和志】

 この逸材のNFL挑戦を、日本のフットボール界も全面バックアップする。Xリーグを統括する日本社会人アメリカンフットボール協会と日本アメリカンフットボール協会は、アメフト経験のない有望な選手の発掘に力を入れ、クロスオーバーアスリートのための有識者委員会を立ち上げている。

 花田の存在ありきでできたこの委員会。NFL入りを目指す彼の素材を最大限に生かすべく有識者たちがさまざまな手ほどきを施している。

 NFLの下部リーグ的な位置づけのNFLヨーロッパでプレーするなど、元プロフットボール選手で「NFLに一番近い男」の一人だった河口正史氏はその有識者の一人。同氏は現在、日本人があまり使えていない仙腸関節の動きを良くするなどのメソッドを用いて欧米人のような体の使い方を目指したトレーニングジムを経営しているが、昨夏から約週1回の頻度で「相撲仕様」だった花田の体をアメフトのそれに変えるべくともにトレーニングに励んできた。

 河口氏の指導の下で花田が取り組んできたのが重心を上げることだ。相撲ではすり足の動きに代表されるように重心を低くするのがよしとされる一方で、アメフトの場合、相手とぶつかるのは肩など体の上部。ということは、重心を上げねば当たり負けしてしまう。

 ここまでのトレーニングの成果は「めちゃめちゃ順調」という河口氏。それでも、アメフトで花田が十全に体を使えるようになるところからすれば「3、4割ぐらい」だという。花田は合宿中、QBへ突進するパスラッシュの際に体を回転させて対峙(たいじ)する攻撃ラインマンをかわす動きを見せているが、河口氏いわく「ああいうのができるようになったのも最近」とのこと。

他競技のトップがアメフトに来る意味

 元プロフットボール選手で河口氏と同じく日本でもっともNFLに近づいた男の1人である栗原嵩氏もやはり同有識者委員会の一員で、花田をトレーニングしてきた。

 アメフト選手として一線を引いてからも高強度のフィットネススポーツであるクロスフィットネス選手として活動する栗原は、アスリートの身体能力を上げるための「TKアカデミー」を主宰している。筋力トレーニングを施しながら相撲にはない「スプリント」や「ジャンプ」などのスキルを花田に教えている。

 自身もアメフトをやりながら7人制ラグビーやボブスレーでリオや北京五輪を目指した栗原氏は、日本人がNFL入りをするには花田のように他競技でトップの選手がアメフトに来てもらうことが重要だと語った。

「彼(花田)はアマチュア相撲のトップ中のトップで、相撲をやっていてもおそらく将来(大相撲で)横綱を目指すであろう人材ですよね。それは、例えばですけど、プロ野球のドラフト1位確定の選手がアメフトやるって言っているようなもの。他の競技でも成功する選手がNFLを目指すというのはすごく必要だと思いましたね」

 戦術が複雑で1プレーごとに細かい指示の出るアメフトでは理解力も重要だ。花田はやはりXリーグ等の支援で英語も熱心に勉強しているという。

 NFLを目指すにあたっては、2017年に設立され、非北米人選手にロスター枠獲得のチャンス提供するIPP(インターナショナル・プレイヤー・パスウェイプログラム)を介すのが、現状ではもっとも近道だ。このプログラムを経てNFLデビューを果たした選手は幾人か出ている。

 毎年秋にIPPでトレーニングを受ける権利を得るためのコンバインがヨーロッパなどで行われている。年齢的な資格を得ている花田は今秋、コンバインに参加し、このプログラムの候補生となることでNFL入りを目指すと見られる(あるいはプレー経験を積む目的もありアメリカの大学へ進学しそこからNFLを狙う可能性も考えられる)。

 北米の4大スポーツリーグで日本人選手が出たことがないのはNFLだけ。しかし花田はその高い壁に挑戦できる、日本アメフト界の光明かもしれない。

「ポテンシャルはもう、めちゃくちゃあると思っているので、ちゃんとトレーニングすればNFLに行けると思ってます」(河口氏)

「ポテンシャルだけで言えば、可能性はあると思います」(栗原氏)

 有識者の2人も、花田の素材にはこのように太鼓判を押す。

 これまで実戦経験が一度もないだけに、ドリームボウルで花田にどれほどの出場機会が与えられるかはなんともわからないが、彼個人のNFL挑戦ということを考えると、少しでも彼がフィールドに立つ姿が見たい。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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