WBCで大谷翔平を最大限に活かす意思疎通 岩隈久志氏が語る最強チームに必要な「和」
2009年の世界一を支えた城島健司の存在
自身が出場した2009年のWBCでは、捕手の城島健司に大いに助けられたと岩隈久志は話す 【写真:ロイター/アフロ】
岩隈氏自身、捕手とのコミュニケーションに助けられたひとりだった。先発ローテーションの一角を任された2009年、普段と大きく環境が違う中で「自分のパフォーマンスができるか」との不安もあった。導いてくれたのは、当時マリナーズに所属していた城島健司捕手。5学年上のメジャーリーガーはこの上なく頼もしかった。
「僕がどういうピッチャーであって、どういうピッチングをしたいのかをすり合わせながら、城島さんが僕のイメージを引き出してくれました。しっかりコミュニケーションをとりながらできたのは、すごく良かったです」
準決勝進出をかけた第2ラウンドのキューバ戦では6回5安打無失点。韓国との決勝では、8回途中まで投げて4安打2失点の好投だった。大会を通じて防御率1.35の安定感を誇り、「コントロールとかボールの動きとか球種とか…。うまくハマってくれました」と振り返る。過度に相手を気にするより“自分の投球”に集中できたのも、扇の要にどっしりと座る城島あってのことだった。
大谷を含め、世界屈指とも言われる投手陣に欠かせない相棒の存在。2021年の東京五輪では、甲斐拓也捕手(ソフトバンク)がマスクを被り、金メダルに貢献した。栗山ジャパンの初陣となった2022年11月の強化試合では、甲斐に加えて森友哉捕手(オリックス)と中村悠平捕手(ヤクルト)も出場。誰がコンビを組むのか、命運を左右する大きなポイントにもなってくる。
もちろん、大谷が引っ張っていく立場でもあってほしいと、岩隈氏は求める。すでに出場を表明しているダルビッシュ有投手(パドレス)や鈴木誠也外野手(カブス)とともに「メジャーを経験している選手が出てくれるのは、日本でプレーする選手にとって心強いと思います。チームがひとつになる時間をうまく作りながらやってもらえたら」と願う。
重圧見せぬ松坂大輔との「宝物のような時間」
2009年のWBCでは、松坂大輔がリーダーとして投手陣を引っ張った 【Pool / Getty Images】
平成の怪物が音頭をとり、投手陣で食事に行ったり、オフにゴルフで息抜きしたり。「チームをひとつにするために、まずはみんなをリラックスさせるという思いを感じました」。米国に戦いの舞台を移してからは、身の回りの面でも気遣ってもらった。そして何より、日本を背負うエースが淡々と日常のように過ごす背中に、後輩投手たちは見入った。
マウンドでは第1ラウンドから準決勝の米国戦まで計3試合に登板し、無傷の3勝。結果でもエースたる姿を誇り、2006年に続き2大会連続でMVPに輝いた。鬼気迫る表情で世界の打者をねじ伏せる姿と、チームメイトに見せる屈託のないニコニコ。猛烈なギャップを成立させていた。
「絶対的なプレッシャーがあったはずなのに、それを周りに感じさせない。普通に過ごされているんだなと思うほどでした。楽しむのが一番だという雰囲気を作ってくださり、僕らも一緒になって楽しく過ごさせてもらった。自分にとって、宝物のような時間でした」
大舞台こそ平常心。岩隈氏は2004年のアテネ五輪の際に「緊張でなにも力を発揮できず終わってしまった」との悔しさがあっただけに、松坂先輩に背中を押されたような気がした。「自分のできることだけやればいいんだ」との思いが、マウンドでのパフォーマンスにつながったと確信している。
今回の侍ジャパンにも、若い伸び盛りの投手がメンバー入りすることが見込まれる。立場や年齢を越え、いかに融合できるか。岩隈氏も語気を強めて言う。
「初めて日本代表として戦う選手も、遠慮なく先輩に話を聞きに行ってほしい。コミュニケーションを取る中で、自分のよりいいものが出せることもあるし、最強チームとして戦えるんじゃないかと思います」
グラウンドの内外で二刀流を中心とした輪ができるほど、チームは強くなると信じている。悲願達成には、侍の和が欠かせない。
企画構成:スリーライト