「吐き気を感じた」WBC決勝・先発の重圧 岩隈久志が貫いた覚悟と目にした国民の大熱狂
2009年WBC第2回大会、韓国との決勝で先発を託された岩隈久志。どんな思いでマウンドに上がったのだろうか? 【Kevork Djansezian / Getty Images】
7回2/3を投げ、4安打2四球6奪三振で2失点。悲願につながる97球で、周囲からは「影のMVP」と称えられた。誇らしい達成感とともに、列島の大熱狂も体感。まもなく14年が経とうというのに、強烈な記憶として思い出す。
決勝当日の試合前にビバリーヒルズへ
決勝戦を8回途中4安打2失点で降板した岩隈久志。「みんなで戦う」という意識でマウンドに上がったと話す 【写真:ロイター/アフロ】
「決勝、任せたぞ」
心の準備が整っていたわけではない。「任されるとは予想していなかったですね」。第2ラウンドで先発したキューバ戦から決勝までは、わずか中4日。先発陣のローテーションを考えても「ダル(ビッシュ)が投げるかと思っていました」。初めて経験する短い登板間隔に、当然不安もあった。
迎えた決戦の日。ナイターを前にした午前中、高級ブティックが立ち並ぶ観光名所・ビバリーヒルズに足を運んだ。「気分転換の時間を作りたかったんだと思います」。今でこそ笑って振り返るが、試合開始が近づくにつれて緊張が襲ってきたのも事実だった。日が傾き、球場に着いた頃にはピークに達していた。
「マウンドに立つ前までは、自分じゃない感じでした。ウォーミングアップから吐き気を感じるくらい。やだな、まずいなという思いはありました」
プロ初登板の時ですらなかったような感覚。ただ、縮こまる理由もなかった。「ベンチには、本当に素晴らしい投手陣がいた。いけるところまで全力でいって、みんなで戦う。自分だけじゃないという気持ちになると、少し楽になれました」。先を見ず、1球目から全力を注ぐことだけを考えると、いつも通りに腕が振れた。
4回2死までパーフェクト。余裕すら感じる快投に見えたが、マウンド上の27歳はとにかく必死だった。
「一人も走者を出してはいけないというような、常に緊張感がありました」
1点リードの5回先頭で、同点ソロを被弾。引きずることはなかったが、1死から左翼線に痛烈な打球を浴びた。「流れの中での二塁打は苦しくなる」。後手に回りそうになった気持ちは、仲間に救われた。左翼手の内川聖一外野手がワンバウンドでスライディングキャッチするや、二塁を狙った打者を素早い送球でアウトに。「あのスーパープレーに助けられました」と感謝は尽きない。