黒田剛監督が選ぶ「青森山田ベストマッチ」

黒田剛監督が選ぶ青森山田ベストマッチ①・前編 「百戦百打一瞬の心」を体現して歴史を塗り替えた前橋育英戦

吉田太郎

課題に取り組んで身につけた驚異的な決定力

鳴海が2ゴールを挙げるなど、8本のシュートで5得点を奪って前橋育英に勝利。1本のシュートにこだわって取り組んできたことが、選手権初優勝という形で結実した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 青森山田には、「百戦百打一瞬の心」というスローガンがある。勝負は一瞬で決まるのだから一瞬に全てをかける、という思いが込められた「百戦百打一瞬の心」。1本中1本、100本全てのシュートにこだわり、決めきる力は今も青森山田の強さの源だ。

 黒田監督は、「前の年に久我山とやって負けて、あの時に出したテーマだったと思う。決定打を何本か外して、その次の年に“百戦百打”じゃないけれど、1本中1本にこだわってトレーニングしてきたという記憶がある」と振り返る。

 2015年度大会準決勝で青森山田は12本のシュートを放ちながら1得点に終わり、國學院久我山(東京)に1-2で競り負けていた。高橋や住永、嵯峨、鳴海、廣末はその試合の経験者。その1年後の準決勝、青森山田は5本のシュートで2点を奪って勝利し、決勝でも「百戦百打一瞬の心」を体現した。

 この大会、青森山田のシュート数は5試合で36本。得点数は20(オウンゴールによる1得点を含む)だ。一方の前橋育英はシュート65本で7得点。サッカーはシュートを確実に決めなければ勝てないスポーツだ。準々決勝以降は全て相手のシュート数を下回っていた青森山田だが、前年度の課題に取り組んで身につけた驚異的な決定力で前橋育英などと差をつけたのだった。

 黒田監督曰く、高校生は3年生の選手権前になると、学べなくなる時期が来るのだという。これ以上、頭にも身体にも入ってこないという時期。コーチの言葉に聞く耳を持てなくなり、成長を止めてしまう選手がいる。特にこの年の青森山田は選手権直前にプレミアリーグを制し、全国制覇を成し遂げていた。だが、1年前の悔しさを知る彼らは「もっと頭と身体に入る、まだ学べる、もっと聞ける、もっと成長できる」と、選手権決勝の日まで謙虚に成長しようとした。そして、5-0というスコアで歴史を塗り替えた。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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黒田剛(くろだ・ごう)

1970年5月26日、北海道生まれ。登別大谷高(室蘭大谷高に統合され、現在は北海道大谷室蘭高)、大阪体育大でプレーした後、指導者の道へ。94年に青森山田高のコーチとなり、翌95年に同校監督に就任。全国高校サッカー選手権優勝3回(2016年度、18年度、21年度)、全国高校総体優勝2回(05年、21年)、高円宮杯U-18プレミアリーグファイナル優勝2回(16年、19年)など数々の栄冠をもたらしてきた。22年度の選手権・青森予選をもって監督職を辞して総監督に。23年シーズンからJ2・FC町田ゼルビアのトップチームで指揮を執ることが決まっている。

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