黒田剛監督が選ぶ青森山田ベストマッチ①・前編 「百戦百打一瞬の心」を体現して歴史を塗り替えた前橋育英戦
今年度をもって、28年間率いた青森山田を去る黒田監督。同校の指揮官として集大成となる第101回選手権を前に、「青森山田ベストマッチ」を3試合挙げてもらった 【吉田太郎】
1995年の監督就任から28年にわたって青森山田の指揮を執り、「青森山田時代」を築いた黒田剛監督は、23年シーズンからJ2リーグ・FC町田ゼルビア監督へ転身する。11月の選手権青森県予選決勝を最後に監督から退任し、青森山田の総監督として第101回全国高校サッカー選手権を迎える黒田氏に「青森山田ベストマッチ3」を選んでもらった。
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3つのベストマッチ以外にも忘れ難い試合
「劣勢、危機的状況のなかから勝利に結びつけた試合」として、0-2の後半アディショナルタイムにコーナーキックとロングスローから連続ゴールを決めてPK戦の末に勝利した2015年度大会3回戦の桐光学園(神奈川)戦と、FW染野唯月にハットトリックを許しながらも後半42分に追いつき、PK戦で勝利した2018年度大会準決勝・尚志(福島)戦を挙げる。そして、「悲劇でいうと、静学との決勝」。2-0から3点を奪われて逆転負けし、連覇を阻まれた2019年度大会決勝・静岡学園(静岡)戦も脳裏に深く焼き付いているようだ。
その上で「ベストマッチ3」に選んだ1試合目は、就任22年目で選手権初優勝を決めたゲームだ。2016年度大会決勝、前橋育英(群馬)戦。青森山田は5-0という大差で勝利し、青森県勢初の選手権覇者に輝いた。
全試合無失点の前橋育英ゴールをこじ開けて
立ち上がりから前橋育英にペースを握られ、いつ失点を喫してもおかしくない状況だったが、23分に高橋のゴールで先制した 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
その2週間後に開幕した選手権は、MF住永翔主将の「パルティード・ア・パルティード」(スペイン語で「1試合1試合」の意)という名文句も生まれた2分50秒の選手宣誓からスタート。青森山田は鵬翔(宮崎)との初戦から東海大仰星(大阪。現・東海大大阪仰星)の準決勝まで1度もリードを奪われることなく、MF柴崎岳やMF椎名伸志を擁した2009年度大会以来2度目となる決勝進出を果たした。
この決勝、青森山田は廣末、DF小山新、DF橋本恭輔、DF三国スティビアエブス、住永、MF郷家友太、MF高橋壱晟、MF嵯峨理久と後のJリーガー8人が先発。一方の前橋育英もDF角田涼太朗、FW飯島陸ら後にJクラブ入りした6選手が先発していた。
試合の立ち上がりは、守備から攻撃の切り替えが速い前橋育英がペースを握る。ショートコンビネーションで青森山田のプレスを外して前向きの選手を作り出し、ゴール前へクロス。16分、青森山田はDFラインが敵選手に入れ替わられてGKと1対1のピンチを迎えたが、廣末が足でストップした。
青森山田はその後も相手にDFラインの背後を突かれるシーンがあったものの、廣末が広い範囲をカバーして対応。逆に23分、青森山田はFW鳴海彰人のマイナスクロスから10番の高橋が左足を振り抜く。ボールはブロックしようとした相手DFの身体に当たり、そのままゴールイン。初戦から全試合無失点の前橋育英ゴールをこじ開けた。
黒田監督は「(立ち上がりから)前育の波に飲まれそうになっていて、『これで1点取られたら恐ろしいことになるな』、と言っていた矢先にウチが1点目。前育は攻めても攻めても取れなくて、2点目を取られた時は相当ダメージが大きかったと思う」と分析する。
前橋育英は27分、45分にも決定機を作り出したが、シュート精度を欠いたり、シュートを打ちきれずにクリアされたりするなど1点が遠い。逆に青森山田は前半アディショナルタイム、中央でのパス交換から嵯峨が抜け出し、2点目のゴールを挙げた。青森山田は後半にも廣末のロングキックを起点とした攻撃から大会得点王の鳴海が決めるなど3点を加え、計5得点。シュート数は前橋育英が9対8と上回ったが、スコアは青森山田の5-0だった。