[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第19話「悪ガキがつくる余白」
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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「丈一ロス? なんだそれ」
時計は12時を回っているが、他の個室から笑い声が聞こえてきた。さすがタクシー運転手おすすめの居酒屋。なかなかの繁盛店らしい。
笑い声をよそに、グーチャンは真顔で答えた。
「2034年ワールドカップ(W杯)後、ジョーさんが引退してしばらくは、喪失感はなかったんですよ。新たにギーさんがキャプテンになり、頑張ってましたから」
丈一のキャプテンを引き継いだのは、丈一と同学年の高木陽介だった。リゴプールで活躍していたハードワーカーで、実績を考えたら当然の流れだっただろう。
「でもね、2年前に秋山さんが監督に昇格してから、だんだん雲行きが怪しくなって。転機は最終予選の初戦でバーレーンに負けたことでした」
アメリカ在住で代表を追っていなかった丈一も、バーレーン戦のニュースは目にした。まさかアジアの格下に0対1で敗れるとは。
そういう番狂わせの直後はチーム内でもめごとが起きやすい。日本代表も例外ではなかったようだ。
グーチャンは烏龍茶を一口飲んでから話を続けた。
「急遽、選手ミーティングを開こうという話になりました。まあ、それを提案したのは僕なんですが」
「なぜグーチャンが?」
「距離を感じたんですよ。ベテランと若手の間に。決して仲が悪いわけではないんですが、やりたいことにズレがあると感じたんです」
これまで日本代表において、選手ミーティングはさまざまな危機を救ってきた。丈一がキャプテンを務めた2030年W杯直前も、スイス合宿の夜にジャグジーで行った選手ミーティングで団結した。
ただし、選手ミーティングは劇薬でもある。使用法を誤ると衝突を引き起こし、溝を深くしてしまう。2006年W杯や2014年W杯では、選手ミーティングがマイナスに働いた。
丈一は待ちきれず、結論から訊いた。
「で、実際どうだったんだ。ミーティングはうまくいったのか?」
グーチャンの表情が曇った。
「一宮光と加藤慈英はわかりますか?」
「ある程度はな。2人ともヨーロッパでやってるよな?」
「一宮はベルギーで慈英はスペインです。彼らは若い頃からシチュエーショナルプレーといった新しい戦術に触れているので、秋山監督の約束事をつくらないやり方にずっと疑問を抱いていたみたいで」
「へぇ、そういう不信感もバーレーン戦は影響したのかもな」
【(C)ツジトモ】
一般論として、若手から意見が出るのは悪いことではない。負けたときは問題点を洗い出すチャンスである。
だが、それを生かせるかは、意見を受け止めるベテラン側にかかっている。特にリーダーの態度に。
グーチャンは高木のリーダーシップに触れた。
「一宮と慈英の意見に対して、キャプテンのギーさんは『ここは気合だろ。今は気持ちの方が大事だ』と返したんです」
丈一は頭を抱えた。
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