[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第8話「コピーでは勝てない」
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
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【(C)ツジトモ】
ASミランへ移籍してイタリアに住んで以来、秋山は試合前のロッカールームでエスプレッソを飲むのが習慣になった。脳がシャキッとし、視野がクリアになるのだ。監督になってからはさらに飲む回数が増え、仕事前の欠かせない「儀式」になっている。
秋山にはもう1つ大切な「儀式」がある。
エスプレッソを一口であおると、エグゼクティブデスクの椅子に腰をおろし、タブレットに触れた。壁に備え付けられたスクリーンの電源が入る。映し出されたのは、ワールドカップ(W杯)の優勝トロフィーだった。
優勝がどれだけ難しいかは、3大会に出場した経験から誰よりもわかっているつもりだ。だが、ときに経験は発想を限定し、新しい未来を創る邪魔になる。
本気で優勝を成し遂げるために、深層心理にあるブレーキを取り除く必要がある。そこでW杯の優勝トロフィーを見ることを日課にしたのだ。
秋山はスクリーンに向かってささやいた。
「Sei la sola persona che riesca a cambiare il mio mondo」
イタリア語で「君は僕の住む世界を変えられる唯一の人だ」という意味である。もはや優勝杯は「恋人」のような存在だ。
秋山が優勝だけを見据えるようになったのは、ナイジェリアで開催された2034年W杯後の偶発的な出来事がきっかけだった。
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