連載小説:I’m BLUE -蒼きクレド-

[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第8話「コピーでは勝てない」

木崎伸也 協力:F
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舞台は2038年。11月開催のインド・ワールドカップに向けて、日本代表は監督と選手たちの間に溝が生じていた。
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。

【(C)ツジトモ】

 秋山大は「未来フィールド」のバルコニーから監督室に戻ると、エスプレッソマシーンのボタンを押した。やや酸味がかったフルーティーなアロマが部屋に広がっていく。
 ASミランへ移籍してイタリアに住んで以来、秋山は試合前のロッカールームでエスプレッソを飲むのが習慣になった。脳がシャキッとし、視野がクリアになるのだ。監督になってからはさらに飲む回数が増え、仕事前の欠かせない「儀式」になっている。
 秋山にはもう1つ大切な「儀式」がある。
 エスプレッソを一口であおると、エグゼクティブデスクの椅子に腰をおろし、タブレットに触れた。壁に備え付けられたスクリーンの電源が入る。映し出されたのは、ワールドカップ(W杯)の優勝トロフィーだった。
 優勝がどれだけ難しいかは、3大会に出場した経験から誰よりもわかっているつもりだ。だが、ときに経験は発想を限定し、新しい未来を創る邪魔になる。
 本気で優勝を成し遂げるために、深層心理にあるブレーキを取り除く必要がある。そこでW杯の優勝トロフィーを見ることを日課にしたのだ。
 秋山はスクリーンに向かってささやいた。
「Sei la sola persona che riesca a cambiare il mio mondo」
 イタリア語で「君は僕の住む世界を変えられる唯一の人だ」という意味である。もはや優勝杯は「恋人」のような存在だ。

 秋山が優勝だけを見据えるようになったのは、ナイジェリアで開催された2034年W杯後の偶発的な出来事がきっかけだった。
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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載。

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