連載小説:I’m BLUE -蒼きクレド-

[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第7話「玉城の宣言」

木崎伸也 協力:F
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舞台は2038年。11月開催のインド・ワールドカップに向けて、日本代表は監督と選手たちの間に溝が生じていた。
日本代表の最大の弱点とは何か?
新世代と旧世代が力を合わせ、衝突の中から真の「ジパングウェイ」を見いだす。
木崎伸也によるサッカー日本代表のフィクション小説。イラストは人気サッカー漫画『GIANT KILLING』のツジトモが描き下ろし。
 欧州組向けの自主練2日目――。
 玉城迅が「未来フィールド」のピッチに出ると、すでにキャプテンの高木陽介がストレッチを始めていた。リゴプールで4年間スタメンを張り、37歳になった現在はイタリアのジェノバでプレーしている。もともとはハードワークが売りのボランチだったが、その後センターバックで新境地を開いた。
「おー、君が噂の大学生くんか。コーチから話を聞いてるよ。代表を一緒に盛り上げていこう」
 高木と右手を合わせると、ものすごい握力が返ってきた。噂通り猪突猛進で、良く言えば表裏がなく、悪く言えば駆け引きが苦手なタイプだ。
 高木とペアを組んでストレッチをしていると、ロッカールームから次々と選手が出てきた。
 副キャプテンの渋谷寛人、インサイドハーフの桃川亮太、昨晩焼肉を食べた加藤慈英と一宮光。それぞれ28歳、24歳、21歳、21歳。高木と渋谷を除けば、今日も若手が多い。中堅以上で結婚している選手には家族サービスがあるのだろう。
 一宮がウェアの袖をまくりあげ、タンクトップ状態にして声を張り上げた。
「ギーさん、おはようっす! 相変わらず早いですねー。『筋トレ隊』への復帰も待ってますよ」
 高木がうんざりした顔で返した。
「また勧誘かよ。サッカーより営業の方が向いてんじゃね?」
 場からどっと笑いが起きる。一宮が「若手とベテランで戦術理解のギャップがある」と言っていたが、仲が悪いわけではないらしい。
 少し遅れて、あくびをしながら松森レオが出てきた。
 高木が呆れ顔で話しかける。
「おいおい、久しぶりに会っていきなりあくびかよ。虎が見たら、ピッチは戦場だぞーって怒るぜ」
 レオは目をこすって答えた。
「日本に来たときのジェットラグ、きつくないですか? それにボクはパパと違ってオン・オフがあって、ホイッスルが鳴ってからが戦場ですから。そんなことはさておき、ギーさん、元気そうですね」
 昨晩レオから聞いたところによれば、高木とは幼い頃からの顔見知りらしい。父・虎がプレーしていたマンチェスター・ユニティと、高木がプレーしていたリゴプールは50キロしか離れておらず、対戦後のラウンジでよく会っていたのだ。
「レオ、みんなにちゃんと挨拶したか?」
「さっきドレッシングルームで軽くね。イングランドのトップチームって互いに干渉しないじゃないですか。僕はジャパンのアットホームな空気の方が好きだなあ」
 渋谷が無表情のままクククと笑った。
「イングランド代表経験者に褒められて、うちらも光栄だわ。あっ、代表って言ってもユース代表だったか」
 言葉の端々に嫌味がにじみ出ている。玉城の苦手なタイプだ。
 もう一人初顔合わせとなった桃川はほとんど話さない。周囲に合わせて自己主張しないタイプに見えた。
 フィジカルコーチの山田一輝が笛を鳴らした。
「みんなそろったな。今日は7人。ロンドで体を温めたら、1人フリーマンの3対3のポゼッションとミニゲームをやり、最後はインターバル走で負荷をかけよう」

【(C)ツジトモ】

 キャプテンの高木が両手をたたいてチームメイトを鼓舞した。
「ヨシッ、今日もいいトレーニングにするぞ!」
 玉城はノイマンの「無難の罠に陥るな」という教えを復唱し、心のスイッチを入れた。
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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載。

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