[連載小説]I’m BLUE -蒼きクレド- 第4話「ノイマンの教え」

木崎伸也 協力:F
 ミニゴールを置いて1対1が始まった。
 レオがボールをキープし、慈英が体を斜めからねじ込んで奪おうとしている。191センチのレオが右手で抑え込もうとするが、186センチの慈英は左手のひじを相手の喉元に押しつけて対抗した。
 レオが息を切らしながら苦笑いする。
「アー・ユー・アルヘンティーナ? なかなか汚いスキル、持ってるね」
 慈英が得意げに返した。
「急所を突くのは戦いの基本っしょ」

【(C)ツジトモ】

 レオの体からボールが離れ、慈英が右足を先に伸ばした。だがレオが相手のウェアを一瞬だけ引っ張り、再びボールをキープした。
 パワーのぶつかり合いの中に対人技術がある。2人のプレーはマリーシアすらも技術と主張しているようだった。
 レオが慈英のウェアの裾を絞るように下に引きながらささやいた。
「このラフさ、嫌いじゃないよ。シンパシーを覚える」
「おまえも見た目に反して、相当えぐいな」
 結局、互いにゴールを決められないまま3分が経ち、山田が笛を鳴らした。
「はい終了ー! インターバル1分ね」
 慈英が汗まみれの手をあげた。
「ヤマさん、邪魔すんな! ゴールが決まるまでやるから!!」
 同じくレオも手をあげた。
「アグリー! これ、どんなウァークアウトより効くよ」
 山田が渋々了承してストップウォッチを止めた。
「監督からは負荷を上げすぎるなって言われてるのに……。もういいや。好きにしろ!」

 本能vs本能。
 まさに猛獣の決闘だ。
 2人を見ているうちに、玉城は自分が見失っていたものに気がついた。
 ロッカールームに入った瞬間から、初招集でナメられたくないとか、下手だと思われたくないとか、人の目ばかり気にしていた。基準を自分ではなく外に置いてしまっていた。それでは自分らしいプレーなどできるはずがない。
「俺も本能に従う!」
 玉城は突然フィールドに飛び込み、慈英とレオの間に体をねじ込み、ボールをかっさらった。
 慈英が怒鳴りつけた。
「1対1だぞ! ルールわかってんのか?」
 玉城が笑い返す。
「戦場なんだろ? 試合だったらずっと1対1なんてありえないぜ」
 玉城は踵を返してドリブルで慈英とレオに向かってつっかけ、1メートルほどの位置で一時停止した。左か? 右か? 慈英とレオが躊躇した瞬間、玉城は2人の間をドリブルですり抜けた。
 玉城は鋭いシュートをミニゴールに突き刺した。
「ノイマンさん、やっとわかったよ。これが自分を表現するってことだ」

 立ち尽くすレオと慈英に向かって、玉城は言った。
「で、レオとジェイ、次どっちが俺と1対1やる?」
 すかさず慈英がツッコミを入れる。
「おいおい1点取ったくらいで、もうタメ口か」
 レオが一歩前に出た。
「じゃあボクだ」
「よし、受けて立つ」
 山田がホイッスルを鳴らすと、再び猛獣の決闘が始まった。

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【(C)ツジトモ】

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著者プロフィール

1975年、東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経て、2002年夏にオランダへ移住。03年から6年間、ドイツを拠点に欧州サッカーを取材した。現在は東京都在住。著書に『サッカーの見方は1日で変えられる』(東洋経済新報社)、『革命前夜』(風間八宏監督との共著、カンゼン)、『直撃 本田圭佑』(文藝春秋)など。17年4月に日本と海外をつなぐ新メディア「REALQ」(www.real-q.net)をスタートさせた。18年5月、「木崎f伸也」名義でサッカーW杯小説『アイム・ブルー』を連載。

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