田中碧、W杯前に本音で思いを語る「日本人全員で船に乗り、他の国を倒しにいっている感覚」

木崎伸也

苦しい時期を「乗り越える術」

ドイツ2年目の今季は身体づくりの成果も出ている 【Photo by Broer van den Boom/Orange Pictures/BSR Agency/Getty Images】

――ヨーロッパでは1人で考える時間が長く、ネガティブに傾くと、精神的にどんどん落ちていってしまう印象があります。

僕は基本的にネガティブなので、考えれば考えるほど悪い方にいってしまう。昨季は正直、どうやっても答えが見つからず、解決策がわからなかった。

ただ、そういう苦しい時期があったので、今季を迎える前に自分のメンタルをよりいいものにしないといけないと思ったんです。良いときも悪いときも、常に上を向いてやるにはどうしたらいいんだろうと考えるきっかけになった。日々のメンタルが充実すればするほど、ピッチの上のプレーも安定するかなと。

そこで今季はメンタルとプレーのつながりを、すごく意識にするようになったんです。

――生活の中でルーティンを作るとか、リフレッシュの方法を取り入れるといったことなんでしょうか?

詳しくは言えないし、言いたくないのですが、ルーティンというより、嫌なことが起きたときにいかに機嫌よく過ごすためにどうするか、っていうことを常に考えています。自分が使う言葉もそうだし、いかに楽しく過ごせるかを意識するようになりました。

1年目の経験があったから、いい意味でメンタル的に変われたと思います。また似たような時期が来ても、乗り越える術は持っている。もちろん今後いろいろな感情が湧いてくるとは思いますけれど、少なくとも今は充実した生活を送れています。

――長谷部選手の『心を整える』のように、本を出すときにそれを明かす?

僕は人にあまり言いたくないので、本を出すとしたら、引退するときか、歳を重ねてもう代表を目指さず楽しくサッカーをやるってなったときですかね(笑)。

結局、みんなが同じことをやったら、僕は勝てないので。みんながそれをやらないから自分が勝てる。いかにそういう取り組みで、ハンデを埋めるかだと思っています。

――川崎のある選手が「碧は人間観察をすごくしている」と言っていました。

基本、オフ・ザ・ピッチでは、それはあまりないと思います。ただ、オン・ザ・ピッチでは、すごいと思った選手のプレーを盗もうと思って研究します。その探究心が人より強いかもしれない。人のプレーを真似して、自分のものにしてきた回数は多いかもしれないですね。

――誰のプレーを取り入れましたか?

フロンターレで言えば、(大島)僚太くん、守田(英正)くん、(中村)憲剛さんですね。そのプレーをするときは、自分のプレーじゃない感覚を持ちながらやっています。

たとえば僚太くんだったら、ワンタッチでコントロールしてマークをはがすところや、ターンするところ。見よう見まねで真似して、自分の引き出しを増やしています。

「本音」で語る理由

――ボランチは相手との駆け引きが重要だと思うのですが、相手を騙すのは好きですか?

いや、騙すのは好きじゃないですよ(笑)。まっ正直にもプレーしていないですけれど、騙そうと思ってプレーしていないですね。感覚的には、相手が狙っていない方に行くだけなので。

――なんでこんなことを聞いたかと言うと、田中選手の「言葉の力」は、ストレートに本音を言うことが関係していると思ったからです。若い世代があまり本音を口にしないと言われる中、田中選手は本音を語っている印象がありまして。

確かに、何も隠していないかもしれないです。もちろん今は代表の記者会見がオンラインで、参加している人全員に聞こえてしまうので比較的言える範囲を狭めたりはしますけど。

これは僕の考えなのですが、日本がW杯でいろいろな国と戦ううえで、すべての人の力の集まりがピッチのパフォーマンスになると思っていて。

サポーターもそうだし、指導者もそうだし、メディアもそうだし、仲間って言い方は変かもしれないですが、同じものを背負って戦うチームだと思う。小さい町クラブのコーチや、いろいろな指導者が選手を育てた結果が、現在の日本代表になっている。批判されるときもありますが、批判する人も日本を応援する側だと思っています。

みんなで日本という船に乗って、他の国を倒しにいっている感覚があるんですよ。僕らはすべての人の力のおかげで成り立っているし、だからこそ全員で戦いたいんです。

――そういう考えになったのはいつからですか?

日本代表に入ってからですね。五輪代表のときもプレッシャーはありましたが、ちょっと感覚が違うんですよ。日本代表に入ってから、考え方が変わりました。

すべての人がW杯で優勝したいと思って行動に移す。全員で行動に移さない限り、そこに辿り着くのはすごく難しいと感じています。すべての人がW杯で優勝するにはどうしたらいいのかを考える必要があるんじゃないかと思います。

――帰属意識が薄いと言われるZ世代の中で、田中選手は考えが独特と言われませんか?

いやあ、わかんないっす。でも、僕は深く考えちゃうタイプかもしれないですね。若い世代は自分が、自分がって考える人が多いと思いますけれど、僕は物事を全般的に考える癖があるかもしれない。

――少し前の日本代表では、本田圭佑選手のようにフェラーリで登場するといったド派手なヒーロー像があったと思います。田中選手はどんなヒーロー像を持っていますか?

難しい質問ですね(笑)。そもそも僕はヒーローになるような立ち位置のポジションの人間でもないので。僕らの世代だったら、(堂安)律だったり、(三笘)薫さんだったり、(久保)建英とかがポジション的にもヒーローになる選手ですよね。

ただ、僕の場合、自分がいることで試合の結果を大きく左右するような存在になりたい。それが結果的にヒーローとして見られたらいいなと思います。

――こういう話をフロンターレの下部組織時代から知っている板倉滉選手や三笘選手とすることがありますか?

絶対しないですね(笑)。ただ、冨安(健洋)とはします。彼はいろいろな考えを持っていて、こういう話をしやすいんですよ。

三笘薫(左)と田中碧(右)はいずれもアカデミーからフロンターレ育ち 【Photo by Koji Watanabe/Getty Images】

選手の解決力と「自分たちが帰る場所」

――日本代表で森保一監督は、選手の自主性を引き出そうとして、あえて細かい指示を出さないという取り組みをしていると思います。一方、三笘選手などが「約束事が必要」という声をあげました。監督から自主性を求められていると感じていますか?

自主性を求められるというより、ピッチ内で起きたことに対して、自分たちで解決する時間をたくさんくれていると思います。

約束事に関して言えば、良い面も悪い面もあるかなと。あったらあったで、ない方がいいとなる可能性もある。うまくいかないときに、他の何かのせいにしがちだと思うので。

今の代表では自分たちの判断力と、考えたものをピッチで行動に移して有効な手段にする力が、すごく求められているのかなと。

――W杯最終予選ではプレスの細かい掛け方なども、選手たちで話し合っていたそうですね。考える時間を与えられたからこそ、得たものは何ですか?

各選手がいろいろなやり方や方法を持っている中で、話し合いながらそれを知ることができているのはすごく大きいのかなと思います。

ただし、人によってもできることが変わってくるので、何か1つ自分たちの形って言ったら変ですけれど、強烈な武器を持つことがここからは必要なんじゃないかなと感じています。

まだ日本は相手に合わせなきゃいけない立場ですし、自分たちのサッカーを貫き通して勝てるレベルまで来られていないのは全然わかっていますけれど、自分たちが帰る場所を作ることが必要じゃないかと思います。

――これまでは試合ごとに変わっていた部分があったけれど、何か1つ戻る形があるといいと。

選手が困ったときに、困ったまま過ごす時間が減ると思いますし、90分の中でうまくいく時間を増やせると思うので。攻撃においても守備においても、それがすごく重要かなと思います。

――カタールW杯ではメンバーに選ばれたら、どんなプレーをしたいですか?

僕にとって最初のW杯ではありますけれど、僕の中では最後のW杯でもあるんですよ。というのは、今回が32カ国でやる最後じゃないですか。32カ国出場の中でベスト8以上に挑戦する最後の大会です。

テレビで子供のときから見てきたW杯を、自分がもっと熱いものにしたいと思っています。

あと、やっぱり点を取りたいですね。チームの勝利が一番大事ですが、チームが決勝までいけば、自分を含めていろいろな選手が活躍する場が増える。みんなで活躍して、W杯で優勝したいです。

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著者プロフィール

1975年1月3日東京都生まれ。金子達仁のスポーツライター塾を経てフリーに。2002年日韓ワールドカップ後にオランダに移住。2003年からドイツを拠点に取材を続けている。著書に『2010年南アフリカW杯が危ない!』(角川SSC新書)、共著に『敗因と』(光文社)がある。『Number』『ワールドサッカー・グラフィック』『ワールドサッカー・ダイジェスト』『フットボリスタ』『サッカー小僧』などに執筆。日々ブログを更新中

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