プロスケーター・羽生結弦の覚悟 「観たいな」と思う演技を極めたい

沢田聡子

すべての学びを、スケートに落とし込む

4回転半を跳ぶプログラムは『天と地と』か、それとも新作か 【写真:ロイター/アフロ】

 羽生はプロ転向を表明する記者会見で、4回転アクセルに挑み続ける意志を示している。さらにこの日の囲み取材で「4Aは、できればやっぱりプログラムの中で跳ぶ機会があったらな、とは思っています」とコメントした羽生に、4回転アクセルのためのプログラムを新たに作ることは考えているのか、尋ねてみた。

「今のところ、ちょっと考えていないですね。まずは、4回転半を成功し切ること。その上で『この4回転半のためだったら、どういうプログラムが作れるのかな』というのは、また改めて考えていきたいと思いますし。それがもしかしたら『天と地と』なのかもしれないですし、これから(作る)新たなものなのかもしれないですし、それはちょっと、また改めて考えたいなと思います」

 そう答えた羽生は「ありがとうございます。逆に考えました、今」と言って笑った。取材を受けることで自分の考えを整理するという羽生の能動的な姿勢は、プロになっても変わらない。

 羽生は、5月から6月にかけて出演していた『ファンタジー・オン・アイス』の楽日となる静岡での最終公演で、舞台から登場してリンクに降りる演出で観客を沸かせている。氷上以外での表現でやりたいことはあるかを聞くと、「できれば、それを氷上につながるようにしたい」という答えが返ってきた。

「僕はダンサーでもないですし、ミュージカルの俳優でもなんでもないので、やっぱりスケートにしか自信がないんですよ。それで、いろいろなことを学ぶにあたって『最終的にスケートにどれだけ落とし込めるか』と僕は思っているので。自分のスケートの幅を広げるためにも、いろいろなことを学びたい。その上で、スケートでどれだけ表現できるかということを、まずは大切にしていきたいなと思います」

 羽生は、「ファンタジー・オン・アイス」の公式プログラムに掲載されたインタビューで、動画を観てダンスの基礎を練習していると明かしている。学んでいるのはバレエなのか、それともヒップホップなのか?

「今は、ポップダンスです。バレエは、僕のことを振り付けして下さる先生方が割としっかりやってらっしゃるので、間接的にちょっとずつ学べてはいると思うんですよ。だからこそ、陸上のカチカチな踊りをしっかりちゃんと基礎的にできていた方が氷上に生かせるかな、って。『新しい側面が出るかな』ということを考えながらやっています」

難しいものをやっていく姿を見せ続けたい

 アマチュアスケーターとしての羽生は、SNSでの発信を行ってこなかった。新たに開設した公式YouTubeチャンネルは、プロとなって得た新たな表現の場なのか。

「そうですね、あとは、皆さんに自分の演技を観ていただく機会を増やしたいというのが目的です。やっぱりショーに行けない方もいらっしゃると思いますし、海外在住の方ももちろんいらっしゃいますし。そういう中で、自分の演技をもっと気軽に見ていただきたい。その上で、『やっぱり羽生結弦、いいな』って思っていただきたい、みたいなことは感じています」

 公式YouTubeのチャンネル登録者数は既に54万人となり、このSharePracticeの配信も10万人超が視聴した。大きな反応に、羽生自身勇気づけられているのだろうか。

「やっぱり、嬉しいですよね。『自分がやっている方向が間違っていないんだな』ということを、また改めて感じるきっかけにもなります」

 記者会見でアイスショーの構成が念頭にはあることを明かした羽生だが、具体的なことは口にしなかった。この日の囲み取材でも、年内の活動は目途が立ってきたと話す一方で、告知は別の機会に行うとしている。個別取材でも詳細は語らなかった羽生だが、アイスショーについてもその姿勢は一貫している。

「今日みたいな『難しい難易度のものをやっていくんだ』という姿は、これからも見せ続けたいと思っています」

 プロに転向した羽生のスケーターとしての第二章は、平昌五輪で伝説となった『SEIMEI』を、当時よりも高い完成度で滑り切るという挑戦で始まった。常に前進しようとする姿勢こそ、プロになっても変わらない羽生結弦の本質なのだ。

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著者プロフィール

1972年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社に勤めながら、97年にライターとして活動を始める。2004年からフリー。主に採点競技(アーティスティックスイミング等)やアイスホッケーを取材して雑誌やウェブに寄稿、現在に至る。

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