連載: イビチャ・オシムが伝えたかったこと

愛弟子・江尻篤彦が驚くオシムさんの予言 「当時のジェフは今のリバプールに近い」

飯尾篤史
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オシムさんとジェフの韓国キャンプで初めて会ったときのことは今でもはっきり覚えているという「とにかく大きくて、笑顔ひとつ見せずに現れたんです」 【飯尾篤史】

 東京ヴェルディの強化部長を務める江尻篤彦氏は、ジェフユナイテッド市原(現千葉)や日本サッカー協会でイビチャ・オシムさんとともに働き、愛弟子と言える存在だ。毎日のように薫陶を受け、そのサッカー観や哲学に触れてきた。当時のことを振り返るとき、改めて驚かされるのは、オシムさんが未来を予言していたことだという。そして、オシムさんのことをしっかり伝えて後世に残していくことが、自身の使命だと誓う。

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オシムさんが激怒した理由とは?

――江尻さんは2003年、04年にシーズンにジェフユナイテッド市原(現・千葉)でオシムさんのもとコーチを務めましたが、記憶に残るゲームはどれでしょう?

 やっぱり03年(7月)のアウェーのジュビロ磐田戦はすごく印象に残っていますね。

――今でもJリーグ屈指の名勝負に数えられる一戦ですね。

 王者のジュビロ、岡田(武史)さんの横浜F・マリノスと、三つ巴の状態でステージ優勝を争っていたんですけど、戦力や予算を考えると、我々がそこに割って入ろうとは、どのメディアも予想していなかったと思うんですよ。あの試合は前半に先制されたものの、後半に入ってチェ・ヨンスのPKで追いつくと、チェ・ヨンスの折り返しをサンドロが決めて2-1とひっくり返した。ただ、その直後に右サイドを突破され、クロスから前田遼一にヘディングを決められてしまった。結局、2-2のドローに終わったんですけど、すごく覚えているのは、オシムさんがものすごく怒ったんです。

――勝てるゲームを引き分けてしまったことで。

 ベンチではペットボトルを投げつけて、ロッカールームでは「お前たちは人生で大事なものを失った」といったような表現をされて。同点に追いつかれた場面で、マークしていた相手にクロスを上げられた坂本(將貴)に対しても、オシムさんはものすごく怒った。「中間メンタリティ」という言葉を使って、「だから勝てないんだ」と。責任を全うできなかったことを厳しく指摘された坂本は、責任を感じたんでしょうね、泣いてしまった。チェ・ヨンスが「まだ試合はあるんだから」と割って入ったら、オシムさんは「それ以上、口を開くな」とヨンスにも怒った。

 真のチャンピオンになるためには、もっともっとやらなければならないことがある、ということを教えたかったんだと思うんですね。「鉄は熱いうちに打て」というように、その場で責任の所在をはっきりさせ、これを乗り越えなければならない、というメッセージだったんじゃないかと。だから、「庇うな、傷を舐め合うんじゃない。プロなら、それを背負って次は同じミスをするな」ということを言いたかったんじゃないかと思います。

――ただ、オシムさんの就任からわずか半年、絶対王者の磐田に対して、選手たちが次々と勇敢に飛び出していき、磐田の選手を飲み込んでいく展開は衝撃的でした。

 その要因が、普段の取り組み、練習に表れていました。それまでのジェフの選手たちは、どこか頼りなく、中位でいることに居心地の良さを感じるようなメンタリティだったのが、オシムさんによって矢印を自分に向けるようになり、普段の生活からサッカーと向き合うようになった。選手の意識が本当に変わっていきました。頭の中が変わったというか。考える力を付けるためのトレーニングがすごく多かったので、頭の中が疲れるし、毎日がサッカーのための生活に変わった。それが内容と結果に表れるんだな、と改めて感じました。
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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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