J1月間MVP 鹿島・上田綺世のゴール哲学「得点の伏線は自分で張ることができる」

飯尾篤史

優磨くんとは単純に相性がいい

「フィジカルを押し出したプレースタイルかと思ったら、柔らかくて繊細なプレースタイルでした」とは上田の鈴木評 【Photo by Hiroki Watanabe/Getty Images】

――福岡戦も湘南戦も見事なミドルシュートでしたが、以前、上田選手が「ミドルシュートも自分の動き出しの伏線になる」と話していたのが興味深かったです。相手がミドルを警戒して食いついてきてくれたら、味方に預けて裏を狙うといった駆け引きができるからですか?

 ミドルシュートだけでなく、ポストプレーなど動き出し以外のプレーも含めてですね。足元で受けるシーンを増やすことが背後に抜け出すための伏線に、間違いなくなる。それはポストプレーもしかりで、足元で受ける回数が多ければ、次の場面で相手DFに潰しに来させることができると思っています。

 もちろん、相手が食いつくタイプのセンターバックなのか、相手の最終ラインが高いのかどうかは試合が始まってすぐに感じないといけないですし、それを早く感じてセンターバックをより早く攻略することが大事になってくる。食いついて来ないのなら、なるべく足元で受けてシュートを打ち続ければ、食いついて来るようになって、次はそれを囮にできる。時間をかけながらセンターバックとの駆け引きを制していくこともできるし、自分の武器を生かすためにも、そういう伏線は自分で張ることができると思っていますね。

――ミドルシュートの馬力やプレーの強度は、プロ入りした19年の夏頃よりも明らかに増しています。体重も当時の72キロから76キロに増えている。1、2年後の活躍を見据えて体重を増やす、パワーをつけるという取り組みをしていたのでしょうか?

 いや、それはないですね。プレーする中で自分が徐々に身につけてきたものだと思います。

――鈴木選手との関係性についても聞かせてください。今季からコンビを組んだにもかかわらず、すでに連係がスムーズに感じます。感覚や考え方が合うのでしょうか?

 僕は合わせるのが仕事なので、どんな選手とも合わせますけど、優磨くんとは2トップを組んでいてやりやすいと感じますね。一番は優磨くんが、僕のしないプレーを武器にしているところ。ポストプレーとか、ボールを収められる部分ですね。それは僕の武器である動き出しにも直結するし、単純に相性がいいと感じています。僕の武器も伝えながら、コンビネーションを合わせていける自信もあったので、キャンプからそこはトライしていました。FWの感覚って似ている部分があると思うので、試合中に会話をしなくても、うまく共有できているんじゃないかと思います。

自分の決めてきたゴールが今の自分を作っている

鹿島では20年シーズン終盤からゴールを量産。そのすべてのゴールが今の上田の価値を上げてきた 【写真:アフロスポーツ】

――1トップの場合、中盤の選手との連係が重要だと思いますが、2トップになると、さらにパートナーとの関係性も加わります。どういうところを意識してプレーしていますか?

 特には変わらないですかね。パサーというか“動き手”が増えるのは、僕にとってはプラスですから。優磨くんがボールを持ったらこういう動き、ここでターンしたらこういう動きをしよう、横パスを出したら今度はこうって。2トップになることで自分の動き方の選択肢が増える。それに1トップだと相手センターバックと1対2の関係ですが、2トップだと2対2になるので、スペースを見つけやすくもなる。僕が1人で2人を剥がすよりも、優磨くんの動きに対してリアクションするだけでも裏は十分取れる。そういう面で考えたら、1トップより2トップの方が、FWとしての動きはスムーズになると思います。

――よく「新しい要素を取り入れることは、ずっとし続けないといけない」と話していますが、鈴木選手のプレーを分析して、自らに取り入れようとしていますか?

 もちろん、真似できたらいいですけど、できない部分も多い。参考にはしていますけど、優磨くんのようなキープが自分にできるとは思っていないですね。ただ、そこはバランスだと思います。優磨くんもずっと足元で受けていたら潰されるし、僕も伏線を自分で張るので、お互いどっちもやっているからこそ、バランスが取れているのかなと思います。

――19年夏に話を聞いたとき、「これまでに“もうひとつ上の上田綺世”になれるタイミングでゴールを奪えてきた」と話していました。最近、そんな感覚になれたゴールはありますか?

 取れれば、っていう場面は何回かありましたけど、やっぱり19年の夏以降に自分が決めてきたゴールが、今の自分を作っていると思います。これっていうのは挙げられないですけど、僕自身が気づいていないだけで、いくつかのゴールによって自分の価値は少なからず上がってきているんじゃないかと思います。

――では最後に、ファン・サポーターにメッセージをお願いします。

 今シーズンは連戦が多いですし、僕らも若いチームになったのでフレッシュさもありながら、うまくいくときもあれば、うまくいかない時期もあるかもしれません。それを一緒に戦って、乗り越えていけたらいいなと思いますし、スタジアムで僕たち選手を後押ししてもらえたらうれしいです。

(企画・編集/YOJI-GEN)

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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