W杯アジア最終予選特集 #この一戦にすべてを懸けろ

城福浩×北條聡で日本代表戦士を深掘り 伊東純也の「なぜ」と「長友・中山問題」

飯尾篤史

遠藤航の魅力はインテンシティだけではない

“デュエル王”として、インテンシティの高さが評価される遠藤だが、その推進力も大きな魅力だ。守田とポジションを入れ替えても面白い 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】

──では、遠藤の良さを挙げるとすれば? 森保監督が吉田麻也と並んで最も信頼を寄せる現代表の中軸ですが、川崎のポジショナルなサッカーが染み付いた守田、田中とは、やはりサッカー観も異なると思うのですが。

北條 チョウ・キジェさんが監督だった頃の湘南ベルマーレの選手たちって、ボールを奪った後、そのまま止まらずに敵のペナルティーエリアまで駆け上がり、フィニッシュに絡んでワンセットというか、いわゆるボックス・トゥ・ボックスの仕事をみんながやっていた。当時の遠藤は3バックの一角でしたが、よく最終ラインからピッチのど真ん中を駆け上がって、シュートまで持ち込んでいましたからね。そういった推進力も遠藤の持ち味だし、それを中盤の選手がやってくれることで、ゴールの確率も上がるでしょうからね。

──ボール奪取能力だけが魅力ではないと?

北條 今の4-3-3のアンカーでも、彼は予測能力とか状況判断が素晴らしいので前に出ていけるんですが、ポジションをひとつ上げてインサイドハーフで使えば、彼の強みである奪取力によってボールの回収地点が高くなる分、攻撃面でのプラスがさらに大きくなるような気がします。個人的には、守田とポジションを入れ替えても面白いなと思っていて。ライン間で受けるプレーは得意ではないかもしれませんが、どんどん前からプレッシャーをかけて、奪ったらショートカウンターという展開を増やしていきたいということであれば、彼の良さがそのまま活かせますから。

──今はシュトゥットガルトでもインサイドハーフをやっていますね。

北條 チェルシーに例えると、アンカーがパスワークの起点になれるジョルジーニョで、その1列前に、ボールを刈る力があって、推進力を備えたエヌゴロ・カンテを置くみたいなイメージですかね。遠藤のようにインテンシティが高くて、ボールを奪ったらそのまま相手のゴール前まで駆け上がって行けるようなタイプは、インサイドハーフでも持ち味を発揮できる。そういう意味では、彼をオールラウンダ―と呼んでもいいのかもしれませんね。

城福 例えば、右SBの酒井宏樹から横パスを受けるとき、遠藤は遠い方の左足でコントロールして、ワンタッチでパーンとサイドチェンジができる。それこそ伊東の仕掛けと同じように、ファーストタッチでチームにスイッチを入れられるのが、彼の魅力です。インテンシティの部分ばかりに目が行きがちですけど、決してそうじゃない。そこはヨーロッパで揉まれて向上した技術だろうし、そのファーストタッチからのサイドチェンジやくさびのパスで日本代表もずいぶんと助けられていると思います。

北條 それって、本人が本当に意識して取り組んでいないと、絶対にうまくならないところですもんね。その一方で、アンカーの位置に守田を置けば、パスワークの起点が定まるので、もう少しインサイドハーフの負担も減るのかな、とも思うんです。現状では後ろに下がり、ビルドアップのフォローに入る機会が多いので、そのぶん体力面で消耗しやすいのかなと。

城福 アンカーで一番いいのは、マンチェスター・シティのロドリみたいに背が高くて、対人もやれて、相手を背負っても受け止められるような選手だと思うんです。でも、それぞれ得手不得手がありますからね。遠藤の場合、自分の特徴をわかっているので、引いてもらうことが多いですが、それは悪いことではなく、CBや周りが横にずれて相手をはがすポジションを取ればいい。大事なのは遠藤がインターセプトやくさびのパスなど、攻守において前向きなプレーを存分に出せること。それが日本の強みになる。

北條 結局、アンカーにどういう選手を使うか、そこに監督の考え方が一番出ますよね。あくまでも自分たちが主導権を握って戦いたいという指導者は、たぶん守田を選ぶのかな。

城福 要は、どこを見ているかでしょうね。アジアの戦いなら、たとえ最終予選でも日本は絶対に主導権を握れるはずなんです。なので本来だったら、北條さんが言うようにアンカーは守田にして、ボール保持率を高めるやり方もあるかもしれませんが、おそらく森保監督が念頭に置いているのはW杯。対世界を考えたとき、やはりボールハンティングからのスピードに乗ったカウンターが戦い方のベースになる。だとすれば、遠藤のあの守備力は、絶対に欠かせない。

渦中に入って行ける選手が絶対に必要

長友の左SB起用を疑問視する向きは少なくない。それでも城福氏は「チームにポジティブな影響力を及ぼせる」と、このベテランの存在の重要性を語る 【Photo by Etsuo Hara/Getty Images】

──SBについても同じことが言えますか? 現状のレギュラーは右が酒井で、左が長友佑都ですが、より中盤的な仕事ができるSBを使った方が、ポゼッションも高まるのでは?

北條 リカルド・ロドリゲス監督(現浦和レッズ)が徳島ヴォルティス時代によくやった、4-2-3-1(守備)と3-4-2-1(攻撃)の可変式を森保さんもやるんじゃないかと思っていました。酒井を中に絞らせて後ろを3枚にして戦ったテストマッチがありましたよね? 20年10月の欧州遠征のカメルーン戦の後半だったかな。仮に相手が前線2枚でプレスをかけてきても、数的優位の状況ですから、アンカーやインサイドハーフがそんなに下がってくる必要がないと思うんですが。

──やはり、練習時間が限られる代表チームでは難しい面もあるんじゃないですか。

北條 さっき城福さんがおっしゃったように、やっぱり得手不得手はありますよね。あとは、組み合わせの問題。SBが内側にポジションを取る戦術がトレンドのようになっていますけど、あくまで幅を取るウイングがいるというのが大前提。例えばリバプールなんかは、SBがバンバン外回りしていくわけで、ウイングにどういうタイプの選手を置くかによって、SBの役割も変わってくると思うんです。中に絞って持ち味が生きる南野を左ウイングで使うのであれば、左SBには外回りの得意な長友を使っていいでしょうし、大外から仕掛ける三苫薫のようなドリブラーを左ウイングに起用するとなれば、内側からサポートできる中山雄太の方が、噛み合わせとしてはいい、と言った具合に。

 この“長友・中山問題”がクローズアップされている現状は、正しいチーム内で正しい競争が行われている証でもあるでしょうし、長友の性格を考えれば、むしろ危機感を抱いてより奮起しそうだし、それは代表全体にとってもメリットになる。今の段階で、別にどちらかに固定する理由はないと思います。

──本大会を見据えた場合はどうですか?

北條 守備の部分では、まだまだ長友に分があるのかなと、個人的には思っています。W杯出場国のウイングには、それこそ化け物クラスがたくさんいるし、SBが1対1で止められないという展開になると、高い確率で致命傷になってしまう。もちろん、立ち位置を含めた攻撃面での立ち回りも重要ですが、それ以上に守備でどれくらい戦えるか。ロシアW杯で日本があそこまでやれたのも、長友や酒井が1対1の局面で五分以上の勝負をしてくれたことが、すごく大きかったと思うんです。

城福 選手は試合に出たいもの。ましてや代表に招集されるような選手は「俺が勝利の立役者になる」とギラついているのが当たり前。一方、監督はそういう選手をどうコントロールするのか、マネジメント力が問われる。それが大前提で、この“問題”に触れると、チームって、生き物なんですよ。試合の前からいろんな問題に直面する。試合中もさまざまなことが起こる。そして試合の終わりは次の試合の始まりですから。そうやってずっと動いている中で、監督って基本的に、物事が順調に運ぶという前提で逆算はしないんです。想定外のアクシデントが起こったときに、誰がそこでチームに対して誠実に対応できるか、あるいは誰にチームを鼓舞する力があって、ポジティブな影響力を及ぼせるかということを、まずは考える。

 だから、実際に使うかどうかは別にして、オン・ザ・ピッチ、オフ・ザ・ピッチのあらゆるシチュエーションでチームにとってプラスになれる選手を、自分の手元に置いておきたいんです。おそらく佑都や麻也は、万が一スタメンに自分の名前がなくても、チームのために行動できる。佑都であれば、それこそインテル時代にハビエル・サネッティのような、ベテランの中でもトップ・オブ・トップの選手の振る舞いを、間近で見てきたわけです。試合に出る、出ないに関係なく、チームの戦力になるにはどうすべきかを肌で知っている。

北條 そういったスタンスや心構えを、監督は感じ取るんですね。

城福 ええ。ひょっとしたら、周りにはちょっとやり過ぎに映ることもあるかもしれませんが、監督にとっては、やっぱりありがたいんですよ。佑都が中山と交代するときの声がけなんて、まさにそうですよね。ああいった振る舞いは、チームにとって絶対にマイナスにはなりませんから。

 たぶん、麻也も同じ感覚でしょう。年明けの最終予選2試合をケガで欠場し、代わって出た板倉滉や谷口彰悟が活躍しましたが、仮にこの先レギュラーを奪われても、「なんで俺が出られないの?」って腐るのではなく、絶対に代表をプラスの方向に持って行ってくれる。そういった信頼感が、彼らにはあるんだと思いますね。

北條 外側には見えにくい、伝わりにくいところ。各々のメンタルやパーソナリティといった人間臭い部分ですね。よく情理を尽くせと言いますが、理(ロジック)一辺倒ではなく、情の部分にも十分に気を配りながらチームを束ねることが肝要という話ですね。

城福 試合の90分間だけで見たら、「こっちの選手の方がいい」「いや、あっちだ」って言えるんでしょうが、大切なのはそこに向かって行く過程であり、終わった後の次戦への準備です。与えられた時間で本当の意味でのチームとなり、目の前の勝負にすべてを出し切れる状況を作る。それこそが勝利の可能性を高めていくことになる。最終予選も本大会もそれは同じだと思います。

 森保監督は、ロシアW杯を戦う佑都や麻也の姿を、当時は代表のコーチとして見ていたわけです。だから、なぜ彼らをそこまで信頼するのかっていうのは、たぶん外野の人間には分からない部分があるはずなんですよね。今回の“長友・中山問題”で槍玉に上がったときの佑都の振る舞いを見ていると、「やっぱり佑都だよな、これはチームに置いておきたくなるよな」って感じますよね。

北條 かつての恩師の言葉は、長友もうれしいでしょうね。

城福 うまくいかないとき、何かアクシデントがあったときに、他人事のようにそっぽを向くんじゃなく、自分事として渦中に入ってこられる選手が、チームには絶対に必要なんです。今のリバプールがなんで強いのかと言ったら、あくまでも推察の域ですが、ジェームズ・ミルナーとジョーダン・ヘンダーソンの両ベテランが、どんな状況でもトレーニング場やロッカーで常に渦中に居続けているからではないかと。おそらく南野はそのことをよく知っているはずです。とにかく際どくも正当な競争の中でしのぎを削っているベテランがどんな空気を醸し出すかは、チームになる過程で本当に重要なファクターです。

──今回の最終予選で、1勝2敗の瀬戸際から5連勝と這い上がってこられたのも、経験豊富な吉田や長友が、良い空気感を生み出していたからかもしれませんね。

城福 GKの川島永嗣だって、どうしてまだ代表に呼ばれるのか、不思議に思う人もいるかもしれません。ただ彼も、麻也や佑都と同じで、自分事として監督と一緒になってチームの再建に取り組んできたはずなんです。たとえピッチに立つ機会はなくても、森保監督にとってはかけがえのない戦力なんでしょう。

(企画構成:YOJI-GEN)

城福浩(じょうふく・ひろし)

1961年3月21日生まれ。徳島県出身。早稲田大卒業後、83年に川崎フロンターレの前身である富士通に入社し、同社サッカー部で主にMFとしてプレー。98年に富士通退社後は、アンダー世代の日本代表監督を歴任し、2006年のAFC U-16選手権で優勝に導く。08年にFC東京の監督に就任すると、翌年にはナビスコカップを制覇。その後はヴァンフォーレ甲府、FC東京、サンフレッチェ広島の監督も務めた。

北條聡(ほうじょう・さとし)

1968年生まれ。栃木県出身。早稲田大卒。Jリーグ元年の93年にベースボール・マガジン社に入社し、『週刊サッカーマガジン』編集部に配属。アトランタ五輪、日韓W杯などを取材し、2004年から『ワールドサッカーマガジン』編集長、『週刊サッカーマガジン』編集長を歴任。13年に退社し、現在はフリーランスとして活動する。

【試合情報】
AFCアジア予選 -ROAD TO QATAR-
第9戦 オーストラリア代表vs日本代表
3月24日(木)18時10分キックオフ(17時30分配信開始)
DAZNにて独占配信

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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