F1 2022年シーズン開幕特集

角田裕毅が肌で感じた“凄すぎるF1の世界” 独占インタビュー

柴田久仁夫

今シーズンがF1参戦2年目となる角田裕毅。そんな彼が感じた「F1ならでは凄さ」について語ってもらった 【Red Bull Content Pool】

 迫力の車載映像や詳細な走行データ、レース中の緊迫した無線のやり取りなど、膨大な情報が公開されるようになって、僕たちはF1の世界がすっかり分かったつもりになっている。しかし実際には部外者の目に触れない部分のほうがはるかに多いのは、いうまでもないことだ。

 ちょうど1年前に初めてF1に足を踏み入れた角田裕毅も、さぞ驚いたり、予想外の事態に戸惑ったりしたことだろう。独占インタビュー[パート2]では、角田の目を通したF1の世界を紹介しよう。

つらかった時期も、ついエゴサーチ

国際中継などで見られるだけでも角田を支えるスタッフの数は少なくない。しかし、実際は画面に映らないところにも大勢のスタッフが存在している 【Red Bull Content Pool】

──去年初めてこのF1という世界に来て、一番驚いたことは何でしたか。

角田 まずは、チームの規模ですね。そしてF1というスポーツをフォローしている世界的な規模。そのふたつに驚きました。チームの規模は、もちろん人数としては分かっていましたけれど、実際にイタリアのファクトリーでスタッフの皆さんと対面したときに「あぁ、これだけたくさんの人たちが、たった2台のために働いてくれているのか」と素直に驚きました。F2までの規模だったら、全員とコミュニケーションを取ることも簡単です。でも、F1では、それも難しい。そのなかでどれだけチームを味方につけるか。どれだけチームと一緒に進んでいけるか。その難しさは、すごく感じましたね。

 そして、もうひとつの驚きが世界中のファンの存在ですね。レースでうまくパフォーマンスが発揮できないときには彼らの批判だったり、厳しいメッセージだったりが、山のように届く。そこで初めて実感しました。これだけの人数が週末のレースを観ているんだと。それだけF1というのは、本当に厳しい世界だと思いました。ただそれも、少しずつ乗り越えられてきたというか、適応できていますね。何を言われても、今ではほとんど何も感じません(笑)。去年の前半は、どうしても自分の評価が気になっていた。でも、それが逆効果というか、自分への厳しいメッセージを目の当たりにして、つらい気持ちになりましたね。今では、そういうものを見ても「面白いな」と思えるようになった。「見返してやる」とか、そういう気持ちでもありません。単純に「面白いな」と思うだけです。

──去年の厳しい時期も、情報をシャットアウトせずに、エゴサーチしていたんですよね?

角田 そうですね。シャットアウトする行為も、それはそれでエネルギーを使うし。なので僕は素直に見るタイプです。見て、落ち込んだ(笑)。でも結果的に、それでよかったんだと思います。そのうち何も感じなくなっていき、そこからは自分の走り、自分の課題の克服に集中できるようになった。シーズン前半は、全然そういう状態じゃなかったですけれど。とにかく開幕戦バーレーンが良かったので、そこからの評価の落ちがかなり気になってしまったのが本音です。でも、そのあとは何もかも失って、そうしたらもう上がるしかない。

──同時に同じくらい励ましのメッセージも来ていたでしょう。

角田 はい。それは本当にありがたかったです。

自分も凄いから、この世界にいる

世界でわずか20席しか存在しないF1のシート。そのなかで頂点に立つためには「死に物狂いで努力しないといけない」と角田は語る 【Red Bull Content Pool】

──年間22、23戦というレース数の多さ、それも世界中で開催されるので移動量もすごい。そこの大変さは、いかがでした?

角田 わりと早く適応できましたね。さすがに3連戦で、しかも国同士が大きく離れているときは、飛行機に乗っている時間が長くてちょっときつかったですね。レース後の疲労回復も、遅くなっているのを実感しました。でも、今まで知らなかったいろいろな土地を訪問できた。去年、レースのないときはファクトリーに行くしかなかったので、世界中に出かけられることは、旅行感覚で逆に楽しかったです。そこまでつらさは感じませんでした。一方でエンジニアやメカニックの人たちは、長いあいだ家族と離れ離れになっていた。イタリア人は特に家族を大事にしますから、あれは辛かったと思います。チームと一緒に、何とか乗り越えていたという感じだったと思います。

──そこにコロナ禍も加わった。

角田 そうですね。レース以外のタイミングで、好きな国に旅行できなかったりするのは、ちょっと残念でした。とはいえ、レース週末のPCR検査とか、感染対策の一環として敷かれていた厳しいバブル制限などは、もう慣れましたね。

──一緒に戦うドライバーに関しては、やはり凄さを感じますか。あるいは同じクルマに乗れば決して負けてないと思っているのか。

角田 それぞれのドライバー、凄いなと思うところはもちろんあります。彼らの強さは、いうまでもなくF2時代以上に感じます。それでも同じクルマに乗ったとき、最終的に勝てる自信は失っていません。自分も凄いから、今ここにいるわけで。もちろんみなさん凄いですけれど、自分は彼らに負けてない。(ルイス・)ハミルトンや(マックス・)フェルスタッペン(の領域)に達するには、今まで以上に死に物狂いで努力しないといけない。でも、それができる自信はあります。

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著者プロフィール

柴田久仁夫(しばたくにお) 1956年静岡県生まれ。共同通信記者を経て、1982年渡仏。パリ政治学院中退後、ひょんなことからTV制作会社に入り、ディレクターとして欧州、アフリカをフィールドに「世界まるごとHOWマッチ」、その他ドキュメンタリー番組を手がける。その傍ら、1987年からF1取材。500戦以上のGPに足を運ぶ。2016年に本帰国。現在はDAZNでのF1解説などを務める。趣味が高じてトレイルランニング雑誌にも寄稿。これまでのベストレースは1987年イギリスGP。ワーストレースは1994年サンマリノGP。

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