連載:“大谷翔平の衝撃”でどう変わる? 日本人メジャーリーガーの現在と未来

鈴木誠也がメジャー球団に人気沸騰のワケ 現時点で争奪戦はジャイアンツがリードか

宇根夏樹

広島での過去6年間で出塁率が4割を切ったのは一度だけ。足も肩もある鈴木誠也を多くのMLB球団が欲しがるのは当然だろう 【写真は共同】

 メジャー挑戦をめざす鈴木誠也の新天地が、長引くMLBのロックアウトによってなかなか決まらない状況が続いている。ただ、NPBでの実績は申し分ないだけに、現地での評価は非常に高く、すでに複数球団が獲得に向けて水面下で動いているようだ。ここではメジャー事情に精通するライターの宇根夏樹氏に、鈴木をめぐる昨年末からの動向を整理し、争奪戦の行方を占ってもらった。
 

「マルチツール・タレント」という高評価

 昨年12月2日にMLBのロックアウトが始まって以来、選手と球団間の契約交渉は、マイナーリーグ契約を除き、すべてがストップしている。これは、ポスティング・システムを利用しメジャー移籍をめざしている鈴木誠也についても例外ではない。

 30日間と定められた交渉期限のうち、すでに最初の10日間は費やしたが、残りの20日間はロックアウトの解除とともに、再びカウントダウンが始まる。
 
 ただ、この交渉凍結前に動いた球団は少なくなかった。鈴木の代理人を務める『ワッサーマン』のジョエル・ウルフは、ロックアウト直前に日本のメディアの取材に答え、「8〜15球団と接触している」と明かしていた。いくつかの球団とは、鈴木自身と彼の妻を交え、リモートでの会談を行ったという。

 シアトル・マリナーズのベースボール運営部門を司るジェリー・ディポート編成本部長は、『シアトル・タイムズ』紙のライアン・ディビッシュ記者に対し、鈴木とZoomで話した事実を認め、「どうなるかわからないが、これだけは言える。我々はスズキに興味を持っている。彼はグレートプレイヤーだ」と語っている。

 鈴木の成績からすれば、多くのMLB球団が彼を欲しがるのも不思議ではない。広島カープでは2016年から6年連続で3割台の打率と25本塁打以上を記録し、この間に出塁率が4割を下回ったのは17年(.389)の一度だけ。16、17年は16盗塁、19年は25盗塁と、足もある。さらにライトを守っては強肩を武器に、ゴールデングラブを5度受賞。『サンフランシスコ・クロニクル』紙のジョン・シェイ記者によると、サンフランシスコ・ジャイアンツで運営部門のトップにいるファーハン・ザイディ編成本部長は、ポスティングの申請前に鈴木を「マルチツール・タレント」と形容していたという。
 

ユニバーサルDH制も鈴木の人気を上げた

大谷翔平と同学年の27歳で、これから全盛期を迎えると言ってもいい。「5年6500万〜7000万ドルなら、かなりリーズナブル」とは現地評だ 【写真は共同】

 もう1つ、鈴木に関して特筆すべきは、四球の多さと三振の少なさだ。過去3年の平均は87.3四球と80.7三振。敬遠四球を除いても76.7四球なので、三振の数とあまり変わらない。昨シーズンのア・リーグで本塁打王と打点王を獲得したサルバドール・ペレス(カンザスシティ・ロイヤルズ)のような、選球眼に欠ける早打ちではなく、パワーを備えつつ、打席のクオリティも高いという証だ。

 メジャーに移り、パワー勝負で多少苦しんだとしても、それだけがセールスポイントの打者ではない。米スポーツ専門サイト『ジ・アスレチック』のアンドリュー・バッガリー記者は、鈴木の打席を「セレクティブなアプローチ」と評する。ちなみに、野球専門の米データサイト『ファングラフス』は、成績予測システムのZiPSを用いて、今後5年間の鈴木のシーズン本塁打を20本前後と弾き出している。

 年齢的な魅力もある。大半が30歳前後のFAとは異なり、鈴木は大谷翔平(ロサンゼルス・エンジェルス)と同学年の27歳。これから全盛期を迎えると言ってもいい年齢だ。また、広島に払うポスティング費を合わせても、総費用が1億ドル(約115億円)の大台には達しそうにない点も、MLB球団にとっては興味をそそられる材料だろう。

 スポーツ専門チャンネル『ESPN』のカイリー・マクダニエル記者は、今オフのFAトップ50を紹介する記事で、鈴木を17位に挙げ、契約内容を4年4800万ドル(約55億2100万円)と予想している。一方、米移籍情報サイト『MLBトレード・ルーマーズ』のティム・ダーケス記者は同様の記事で、順位を20位、契約は5年5500万ドル(約63億2600万円)とした。後者の場合、ポスティング費は1012万5000ドル(約11億6400万円)で、総費用は6512万5000ドル(約74億9000万円)となる。そして、ラジオがメインの米メディア『オーデシー・スポーツ』のティム・ケリー記者は、ダーケス記者の予想を踏まえつつ、「5年6500万〜7000万ドルなら、かなりリーズナブル」とまとめている。

 さらに、ユニバーサルDH制の導入も、間接的に鈴木の人気を上げた。今シーズンからナ・リーグでもDH制が採用されることになり、野手の需要が高まったからだ。導入の決定はロックアウト後だが、その前から確実視されていた。

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著者プロフィール

1968年生まれ、三重県出身。MLB専門誌『スラッガー』元編集長で、現在はフリーランスのライター。著書に『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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