連載:22年J1・J2「補強・戦力」を徹底分析!

本命は降格組の横浜FC、対抗は長崎か 番記者によるJ2展望座談会【前編】

飯尾篤史

“ずっ友”がいなくなった千葉は卒業できるか

千葉の注目は20歳のストライカー、櫻川ソロモン(写真)だ。高さと強さを備えた逸材が完全開花すれば、昇格にもグッと近づけるはず 【(C)J.LEAGUE】

──ジェフユナイテッド千葉(昨季8位)も、みなさん上位に推されています。プレーオフ圏内はほぼ間違いないという見解ですか?

海江田 オリジナル10のメンバーで、もう10年以上もJ2に沈んでいるヴェルディと同じ境遇なので、ちょっと親近感を抱いてしまう(苦笑)。ただ今シーズンは尹晶煥(ユン・ジョンファン)体制3年目で、チームの幹も残ったので、やりそうな雰囲気がある。昨シーズンの終盤もめっちゃ強かったもんね。

郡司 ラストは13戦無敗で駆け抜けました。

海江田 守備はいいし、前線の20歳の櫻川ソロモンも完全開花が目前。安定プラス、伸びしろもありそう。

佐藤 僕らの知ってるいつもの千葉なら、ここで監督を代えてくれるはずだったんですが(笑)。

郡司 昨シーズン終盤の結果によって、続投が決まったのかもしれないですね。

佐藤 尹さんらしい堅い守備からの縦に速いサッカーは、確実に浸透していますからね。

郡司 鈴木大輔、チャン・ミンギュ、見木友哉、熊谷アンドリュー、田口泰士ら主力も残留して、近年になく期待値は高い。ただ、あの我慢志向の強いサッカーを、高い次元で1年間やり通せるかというと、ちょっと微妙なのかもしれません。櫻川にはロマンを感じますが、1トップも少し心もとない気がしますし。風間宏矢と高木俊幸が加わった2列目がカバーすればプレーオフ圏内は十分狙えるでしょうが、自動昇格に手が届くかとなると……。そのボーダーライン上にいると見ています。

──京都サンガF.C.の昇格も刺激になっているかもしれませんね。

佐藤 “ずっ友”がいなくなって(笑)。たしかに、僕らの知っている千葉じゃない感はありますよね。ちゃんと“卒業”できるかは分かりませんが。

海江田 シーズンが終わって、「やっぱりいつもの千葉だったね」ってなるかもしれないけどね(笑)。

監督交代の大分はルヴァン杯も負担に

片野坂前監督が築き上げた大分を引き継ぐのは、同じくポジショナルプレーを掲げる下平監督(写真)。ただし、両者のサッカーは似て非なるものとの意見も 【(C)J.LEAGUE】

──同じく3人が共通してAクラスに挙げているのが、ベガルタ仙台(昨季はJ1の19位)です。

佐藤 J2降格で、もっと選手が抜けるかと思っていましたが、意外と残りましたよね。そこにレジェンドの梁勇基をサガン鳥栖から呼び戻したのは、チームにもう一度喝を入れるためでしょう。ただ、昨シーズン終盤からのゴタゴタの影響が気になりますね。手倉森誠監督が辞任して、コーチの原崎政人さんを内部昇格させたのに、手倉森さんをそのまま強化スタッフとしてフロントに残して。チームマネジメントという意味で、あれはどうなのかなと。

郡司 テグ(手倉森)さんに違約金を払えないから、とりあえずクラブに残したんでしょうね。でも結局、現場へのこだわりが強いテグさんは、タイのクラブ(BGパトゥム・ユナイテッドFC)から声が掛かって、出て行ってしまった。

海江田 僕が仙台をAクラスの一番下にしたのは、監督の実績がほとんどない原崎さんの手腕が未知数だから。あと、梁だけじゃなく、地元・塩釜FC出身の遠藤康の帰還(鹿島アントラーズから)も、仙台のファンはすごく楽しみにしていると思うけど、それも良し悪しだろうね。栄光の時代よ、もう一度ってやり方で、ヴェルディは死ぬほど失敗してきたから(苦笑)。

佐藤 説得力があるなぁ(笑)。

郡司 ただ補強に関しては、結構重厚感のある選手を取りましたよ。元C大阪のレアンドロ・デサバトは中盤に強度をもたらせるボランチで、さらに技巧派の遠藤に、名倉みたいなサイドの槍も手に入れています。それでも、FWは昇格を目指せる陣容とは言い切れないし、原崎さんも監督としての色が見えてこない。AクラスはAクラスでも、プレーオフ圏内に入れるかどうか微妙なラインですね。

──佐藤さんと海江田さんは、同じく降格組の大分トリニータ(昨季はJ1の18位)をAクラスに入れています。

佐藤 昨シーズンの天皇杯で決勝まで勝ち上がった戦力がほぼ残っていますし、監督は片野坂知宏さんから下平隆宏さんに代わりましたが、幹の部分に大きな変化はありません。クラブビジョンが明確なチームなので、大崩れはしないでしょう。ただ、片野坂さんと同じくポジショナルプレーを志向する下平さんですが、両者のサッカーは似て非なるもののような気もしなくはないんですよね。

海江田 降格チームを作り直すのは、それも片野坂さんという素晴らしい指導者が去った後というのは、誰がやっても難しい。普通なら“J2沼”に沈んでもおかしくないところだけど、横浜FCを昇格に導いた実績のある下平さんを後任に据えたのは、フロントの功績だと思う。かつて川崎などで活躍したエドゥアルド・ネットの補強にもビビった。

郡司 僕は大分をBクラスにしました。たしかに主力の大半は残りましたが、ボール保持が前提の下平さんのサッカーを、1年間やり切れるだけのメンツがいるのかと言われると、ちょっと疑問。E・ネットの加入でカギを握るボランチが充実したとはいえ、前線のボリューム感が、上位を狙うには物足りないのかなと。あと、ルヴァンカップがあるので(J2から大分と徳島ヴォルティスの2チームが参戦)、それが足枷になるかもしれません。

海江田 今年は11月にカタール・ワールドカップがあって、日程がタイトだからね。

郡司 ルヴァンカップのグループステージ6試合をどう戦うか。割り切って、チームビルディングのために使ってもいいと思いますが、そのあたりのマネジメントがポイントになりそうですね。あとは2年ぶりにヘッドコーチとして復帰した岩瀬健さんが、どんな影響をチームに与えるかも気になりますね。

佐藤 ルヴァンカップの負担は結構きついでしょうね。しかもこのコロナ禍が続けば、移動のストレスもかかりますから。大崩れはしないだろうけど、やはり2位以内に入れるだけのパンチ力はないかな。

スタートダッシュを決めたい町田

昨季10得点・10アシストを記録した吉尾の退団は痛手だが、代わって松本から山口一真(中央)を獲得。町田はピンポイント補強で弱点を補う 【(C)J.LEAGUE】

──郡司さんと海江田さんがモンテディオ山形(昨季7位)を推される根拠は?

海江田 愛媛FCから“ザ・ストライカー”の藤本佳希、松本山雅FCからクレバーな河合秀人と、首尾よくJ3降格チームの主力を引き抜いたし、攻撃のキーマン山田康太も残留した。昨シーズン途中に就任したピーター・クラモフスキー監督のサッカーは浮き沈みが激しいとはいえ、補強はピンポイント。去年の7位を下回ることはないと見ています。

郡司 ボランチには徳島からパスセンスや深みを取るロングフィード力に長けた小西雄大も獲得して、攻撃にバリエーションが生まれそう。さらに新垣貴之(ギラヴァンツ北九州から)のような、個で局面を打開できるアタッカーの加入も大きい。CBのバックアッパーが手薄ですが、プレーオフ出場圏内は十分に狙えるでしょう。

佐藤 とはいえ、中原輝(C大阪)が抜けたのは相当痛いですよ。ボールを運べるうえに決定力もあって、さらにセットプレーのキッカーとしても貴重でしたから。正直、現時点では新垣や河合より力は上だと思うし、加えて途中出場からギアを上げてくれた樺山諒乃介(横浜F・マリノス)も移籍したので、ちょっとウイングの力がどうかなと。あとはクラモフスキー監督の攻撃サッカーもだいぶ研究されてきたので、ここからいかにプラスアルファを出せるかもポイント。自分の形を貫くとは思いますが、J2は相手の良さを潰しにくるチームが多いので、Aクラス入りは難しいかなと。

──昨シーズン、前年の19位から5位にジャンプアップした町田はどうでしょう? 郡司さんは当然、1位予想ですね。

郡司 期待値込みの優勝です!

佐藤 ハハハ。でも、主力の流出を吉尾海夏(横浜FM)くらいに抑えられたのは大きいですよ。もちろん、昨シーズン10得点・10アシストのエースの退団は痛いですが、その後釜に2年越しのオファーを実らせて、松本から山口一真を獲得しています。左SBの翁長聖(大宮アルディージャから)、CBの岡野洵(千葉から)も含め、数は少ないですがピンポイント補強でしっかり弱点を補っています。ただ懸念材料は、選手層の薄さですね。

郡司 特別指定の1人を入れて24人体制です(2月16日時点ではヴィニシウス・アラウージョ、菅沼駿哉が加入し、26人体制)。

佐藤 今年は過密日程で、新型コロナの感染も想定されるなかで、この少数精鋭がネックになるかもしれません。

郡司 それでもチームとしての成熟度が高いので、スタートから勝負はできるはずです。しかも開幕から5試合の対戦相手は、FC琉球、いわてグルージャ盛岡、ツエーゲン金沢、岡山、ヴェルディで、いずれも勝ち点を計算できない相手ではない。下位チーム相手に取りこぼす悪癖を克服し、スタートダッシュを決められれば、大きなアドバンテージを得られます。たしかに選手層はやや薄いですが、もともとランコ・ポポヴィッチ監督は、メンバーをそれほどいじらないタイプですからね。得点力不足という課題も、チョン・テセやドゥドゥといった実績のある選手がトップフォームに戻れば、解消できると思います。

海江田 僕の見立てでは、町田はBクラスのトップ。近年、練習環境が整備されるなど、クラブとして着実に力を付けていて、昇格争いに絡んだとしても不思議じゃないですが、ただ長崎や横浜FCに比べると、陣容のスケール感で見劣りするかなと。

──昨シーズンは11位の岡山を、佐藤さんと海江田さんはAクラスに入れていますね。

佐藤 勝負をかけてきましたよね。即戦力CBのヨルディ・バイス(京都から)と柳育崇(栃木から)を獲得するなど、補強面からも停滞したこの数年間を巻き返そうという意気込みを感じます。勝負強さに定評のある木山監督の招聘からも、クラブの本気度が伝わってくる。かなり強いチームになりそうな予感がしています。

海江田 前半戦は危うかった昨シーズンも、守備から次第に安定して、最終的には中位にまで浮上しましたからね。そこにプレーオフを三度経験している木山監督を迎え、前線にはガンバ大阪からチアゴ・アウベスも獲得した。今シーズン、サプライズを提供してくれるとしたら、岡山。1つくらいは、そういったチームをAクラスに入れておきたかった。

郡司 京都からJ・バイスを獲得し、得点源のミチェル・デュークも残留。センターラインに重厚感はあるけれど、ただ白井永地(徳島)が抜けたボランチがやや心もとない。あと、木山さんは相手ありきの戦い方でチームを勝たせるタイプの監督だと僕は思っているんですが、仮に自分たちありきの舵取りをするようなら、躓く危険性がある。ただ一方で、相手ありきのサッカーに柔軟に対応できるだけのメンツがいるかと言われると、それもちょっと微妙かなと。だから、僕はAクラスから外しました。

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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