羽生結弦、フリー逆転のカギは4回転アクセル 波乱と衝撃の男子SPを無良崇人が解説

野口美恵

五輪三連覇を目指す羽生は、冒頭の4回転サルコウが1回転になったことが響きSPで8位と出遅れた 【Photo by Matthew Stockman/Getty Image】

 8日、北京五輪のフィギュアスケート男子ショートプログラム(SP)が行われた。羽生結弦(ANA)は、リンクの穴につまずき冒頭の4回転サルコウが1回転になるという不運なミス。同種目で94年ぶりの五輪三連覇が懸かる王者は95.15点の8位発進となった。他の日本勢は、鍵山優真(オリエンタルバイオ・星槎)が108.12点で2位、宇野昌磨(トヨタ自動車)が105.90点で3位とそろってSPの自己ベストを更新。首位には、113.97点の世界最高得点をマークしたネイサン・チェン(米国)がたった。

 五輪の大舞台でなぜ羽生にミスが出たのか、そしてフリーでの挽回は可能なのか。大一番で会心の演技を見せた鍵山、宇野の強さとは。2014年四大陸選手権王者の無良崇人さんが、それぞれの演技を振り返るとともにフリーへの展望を語った。

追いかける立場の羽生の4回転アクセルに期待

 現地入りしてからの練習の様子を見る限り、羽生選手の動きはとても良かったですし、ジャンプも安定していました。4回転サルコウは、氷上にあった穴に引っかかってしまったとのこと。そんな不運がなければ、1回転になるようなミスはしない選手です。

 ただ、ジャンプの溝や穴に引っかかることは、まったくないとは言えません。特に長時間練習する時は、プログラムで入っていく場所や方向が同じなので、繰り返しているうちに引っかかることはあります。試合での一本で引っかかるのは、本当に運が悪かったとしか言いようがありません。羽生選手の実力のせいではないだけに、悔しいでしょう。

 4回転サルコウ以外は素晴らしかったです。4回転トウループもトリプルアクセルも、大きな加点がつきました。また演技全体の流れも良く、演技構成点は47.08点が出ました。1つジャンプミスがありながら9点台後半というのは、ルール上の最高評価と言えるでしょう。得点としては95.15点で、まだまだ挽回できるチャンスはあります。そのためには4回転アクセルも含めて、最大限の力を発揮することが必要になります。

 注目の4回転アクセルは、2月7日の公式練習を見る限り、全日本選手権よりも進化していました。全日本選手権の時は、まだ空中で足を組んだまま降りてきて、左足が先に着氷してから右足をつくという両足着氷でした。北京入り後は右足が先について、そのあと左足もついているという両足着氷をしています。つまり右の回転軸のまま着氷できるようになってきたということです。右足の片足での着氷に近づいている印象で、それは大きな進化と言えます。

 全日本選手権の時は、まずは回転軸を作るために同じように踏み込んで、同じように上がるなど跳び方を安定させることに集中していました。一方で2月7日の練習では、カーブから入っていく軌道になり、回転をかける力を使おうとしていました。やはり、「次の段階に入った」と言えるでしょう。

 羽生選手は、久しぶりに追いかける立場でフリーを迎えます。吹っ切れた気持ちで、思い切り挑む4回転アクセルが楽しみです。

完璧な演技で世界最高得点をたたき出したチェン

団体戦のSPよりもさらに完成度を高めたチェン。五輪に懸ける気迫を感じる演技だった 【Photo by David Ramos/Getty Images】

 チェン選手は神がかっていた演技でした。やはり平昌五輪のSPで17位となり、そこから4年を経ての北京五輪です。4年分の思いを背負いながらの演技だったので、何としてでもやり切りたいという思いは強かったと思います。団体戦のSPもパーフェクトでしたが、それよりも完成度が上がっていました。滑っている表情からも気迫が伝わってきましたね。113.97点の世界最高点は、当然の評価でしょう。

 彼のジャンプに関しては、もう技術的には何の不安もありません。特に後半に「4回転ルッツ+3回転トウループ」を入れていて、この個人戦では21.21点が出ました。1つのジャンプで20点を超えるのは、本当に異次元の出来です。フリーでは4回転ルッツ、4回転フリップ2本、4回転サルコウ、4回転トウループという5本の構成が予想されます。どんな戦いになるのか、固唾(かたず)を呑んで見守りたいと思います。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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