羽生結弦、フリー逆転のカギは4回転アクセル 波乱と衝撃の男子SPを無良崇人が解説

野口美恵

急速な成長を遂げた鍵山には表彰台の期待も

団体戦フリーでの自信を確信に変えたかのような滑りで、SPで2位につけた鍵山 【Photo by Matthew Stockman/Getty Image】

 鍵山選手の成長ぶりは凄まじいですね。団体戦のフリーで、パーフェクトに近い演技ができたことで、自信を持って個人戦のショートに臨めていると思います。安定感が抜群でした。何しろ表情がすごく良かったですね。試合自体を楽しめている、五輪という空気感を楽しめていることもが、ジャッジにも伝わっていたと思います。

 ジャンプもスピンもステップも、どれもが質が高く、GOEでも「+4」「+5」が多くつきました。特にジャンプは、スピードがあり、余裕を持って着氷し、その後も演技も流れるような滑りでした。大きな加点がつくのは納得です。

 演技構成点もチェン選手に次いで全体で2番目。「スケート技術」と「演技」では10点を出したジャッジもいたほどです。彼は今季の初めは、まだ8点台後半くらいの評価でしたが、シーズンを通じて良い演技を続け、成長してきたことで9点台中盤にまで伸ばしてきました。まさに五輪の表彰台に向かって、一気に駆け上がってきている印象です。一番勢いがある感じがしました。

 フリーは4回転ループ次第でしょう。4回転ループを含めてパーフェクトの演技にまとめられれば、かなり面白い展開になります。もちろんチェン選手のジャンプ構成は桁違なので、簡単に金メダルのチャンスがあるとは言えませんが、さらに何かを起こしそうな期待感があります。

団体戦での自己ベストをさらに更新した宇野

3位発進となった宇野は、団体戦の経験を上手く生かしてさらに得点を伸ばした 【Photo by Matthew Stockman/Getty Image】

 宇野選手は、鍵山選手と2.22点差の105.90点での3位発進。良い位置につけましたね。「4回転トウループ+3回転トウループ」は、手をついてしまい0.14点マイナスされましたが、大きな減点にはなりませんでした。踏み切って空中にいる段階までは奇麗なジャンプだったので、その面でプラス評価され、そこまで減点になりませんでした。

 団体戦では帯同できなかったステファン・ランビエルコーチとも合流できて、スイッチが入ったと思います。団体戦で取りこぼしたスピンやステップも、1つひとつ丁寧にやろうとしているのが伝わってきました。ステップでは、上半身の使い方やターンがとても丁寧でしたし、スピンのポジションも1つひとつが明確でした。

 団体戦で取りこぼした部分がすべてレベル4だったことと、ジャンプも4回転フリップやトリプルアクセルの質がとても高かったことで、大きな加点がつきました。そのため、結果的に一見するとノーミスだった団体戦よりも点数が高くなりました。団体に出た経験をうまく生かしたと言えるでしょう。

 また、演技を通してよい表情でした。変な緊張もなく、やはり団体戦でこの会場の雰囲気や五輪を経験してからの個人戦だったことも、良い結果につながったと思います。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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