渾身の滑りの川村あんりが5位だったワケ 女子モーグルの紙一重の差を西伸幸が分析
17歳ながら初出場となる五輪で5位に食い込んだ川村。メダルまであと一歩だった 【写真は共同】
今季W杯で初優勝を含む3勝を挙げ、世界ランキング1位。17歳ながら金メダル候補として臨んだ川村は、決勝3回目では滑り終えた瞬間にガッツポーズを見せるなど渾身の滑りかと思われた。会場や視聴者も盛り上がる展開だっただけに、なぜ得点が伸びなかったのだろうか。そして、勝負の命運を分けたポイントは何だったのか。男子モーグルの元日本代表で五輪3大会連続出場を果たした西伸幸さんに、採点競技の妙を解説してもらった。
命運を分けた「コース選択」の重要性
滑走後にガッツポーズを見せるも、タイムが伸び悩んだ川村 【Photo by Patrick Smith/Getty Images】
そうですね。採点競技なので仕方のない部分はありますが、思ったより得点が伸びなかった印象です。金メダルのアンソニー選手、銀メダルのジェーリン・カウフ選手(米国)の滑りはレベルが高かったのですが、少なくとも3位はいけたのではないかと思っていました。
ただ、第1エアで川村選手が本来決めたかったバックフリップ(後方縦回転)のミュートグラブ(板をクロスさせて板の前部分をつかむ技)を別の技に変更していました。もしかすると、予選でもこの技をしようとしてつかめないミスがあったために、第1エアに苦手意識が出てしまい技を変更したのかもしれません。しかしながら、ミドルセクション(第1エアから第2エアに向かう滑り)の入りは誰にも負けていないくらいスムーズで、ターンも抜群だったと思います。
――得点が伸びなかった原因は何だったのでしょうか?
まず誰の目にも明らかな点としては、タイムですね。モーグルはタイムが速ければ速いほど得点が高くなりますが、川村選手の決勝でのタイムは28.00秒。それに対して上位選手はもっと速かったですし、中でも銀メダルを獲得したカウフ選手は26.37秒と、驚異的なタイムを記録していました。これは女子だけの話ではなくて、今大会の男子でも同様です。男子で金メダルを獲得したバルテル・バルベリ選手(スウェーデン)も23.70秒と、圧倒的なスピードを見せつけていました。
――タイムはどういった要因で差がつくのでしょうか?
大前提として、滑走技術によってタイムは変わりますが、実は滑走技術以外に「コース選択」も非常に重要です。モーグルは3つのコースを自由に選択することができます。インスペクションといって、競技前にコースの下見ができますが、そこでどのコースを選択するかを分析します。
――速い選手のコース選択に共通点はあったのでしょうか?
女子のカウフ選手と男子のバルベリ選手は、ともにトップタイムをたたき出していますが、実は2人とも同じコースを選択しています。スキーヤーズライト(選手から見て右側)のコースですね。このコースを選択する選手は少なかったのですが、スピードを出しやすくてタイムを伸ばすには好条件だったように思います。川村選手は真ん中のコースを選んでいましたね。
――選手たちはどんな基準でコースを選ぶのでしょうか?
3つのコースは一見すると同じ特徴に見えますが、人気が出るコースと、そうではないコースに分かれます。なぜなら、それぞれコブの大きさや形が異なり、ターンのしやすさやエアへの入りやすさが絶妙に異なるからです。ターンがしやすく、エアに入りやすいコースは人気ですが、多くの選手が滑ることでコースが荒れてしまうリスクもあります。だから、滑りにくくても多くの選手が選択しないコースをあえて選ぶという作戦もありますし、私も現役時代はどちらかというとそうでしたね。
――北京の会場は人工雪でバーンが硬いと聞きます。それでもコースは荒れてしまうのでしょうか?
もちろん、天然雪よりも人工雪のほうが硬く、バーンは荒れにくいでしょう。ただ、硬いバーンだとエッジング(スキーの角を立たせ、雪を削るようにしてターンしていく技術)を利かせて滑らないとスピードがつきすぎてしまいます。五輪に出場するトップレベルの選手は、エッジングの力がすごく強いんですよ。だから硬いバーンであっても徐々にコースに溝が掘れ、コブの形状も絶妙に変わってしまうので、滑りに影響が出てきます。
――カナダの選手がコースアウトする場面もありましたが、コースが荒れてしまったことが要因なのでしょうか?
さまざまな要因があると思いますが、コースアウトしてしまった選手は掘れた溝にスキー板がはまってしまい、バランスを崩したように見えました。それは多くの選手が選択したコースで起きていますので、コースコンディションが大きく影響したと思います。各選手がどのコースを選択するかは、実際に競技が始まるまで知り得ない情報なので、コントロールできない要素です。