渾身の滑りの川村あんりが5位だったワケ 女子モーグルの紙一重の差を西伸幸が分析

C-NAPS編集部

細かい要素が絡み合う採点競技の難しさ

会心の滑りでオーストラリア女子モーグル史上初の金メダルを獲得したアンソニー 【Photo by Cameron Spencer/Getty Images】

――川村選手と上位選手との間には、どのような差があったのでしょうか?

 メダルを獲得した選手たちとの差で言いますと、やはり3選手とも好タイムをたたき出していました。川村選手も普段のW杯においては、決してタイムが遅い選手ではありませんが、コース選択が大きく命運を分けたという印象です。

 タイム以外に着目すると、金メダルのジャカラ選手に関して言えば、エアが抜群にうまかったですね。「グラブ」といってエアの途中でスキーをつかむ動作があるのですが、つかむ位置やタイミングが抜群で、審査員からすると好印象だと思いました。

 また、銀メダルのカウフ選手はエアへの侵入速度が群を抜いて速く、男子選手顔負けのエアの高さが出ていたので、高得点につながっています。銅メダルのスミルノワ選手はエアの難易度は高くないものの、完成度が抜群だったので得点を伸ばした要因になったと考えられます。

――川村選手と同様に金メダル候補として注目されていたペリーヌ・ラフォン選手(フランス)が4位に留まったのは意外でした。

 ラフォン選手は予選の滑りを見た感じですと、トップ3には確実に入ってくると踏んでいましたが、決勝では全体的なリズムが良くなかったですね。1回の滑りの中で2回飛ぶエアにおいても、着地した際に片方の脚に重心がかかってしまい、バランスを崩していたのでミスも目立ちました。

――コース選択の影響や有力選手のミスなども印象に残りました。

 まさに紙一重な試合展開だったと思います。コース選択という「作戦」によって勝敗が分かれた点もありますし、川村選手のように思った以上に得点が伸びなかった選手もいました。上位選手は実力も均衡しているので、そういった細かい要素が絡み合って出た結果だと感じましたね。また、改めて採点競技の難しさを感じた試合でもあります。

――メダル獲得はなりませんでしたが、日本女子の4選手全員が決勝に進出するなど、チームとして明るい材料がある大会だったようにも思いました。

 全員が決勝に進出するというのはとても素晴らしいことですし、チーム力の高さを見せつけてくれましたよね。川村選手はもちろん、決勝の1回目で敗退した住吉輝紗良選手(日大)、冨高日向子選手(多摩大)らで構成された今の日本代表はとても若いチームです。4年後のミラノ・コルティナダンペッツォ五輪にも期待がかかります。

 また、若い選手が多い中、最年長32歳の星野純子選手(リステル)がチームを引っ張ってくれたことも大きかったですね。星野選手は大きなケガから見事に復活し、今回の五輪でも良い滑りをしていました。私もケガで苦しみましたが、結果的にはケガからたくさんのことを学ぶことができました。星野選手もケガをきっかけに、一回りも二回りも強くなったと思います。今大会の経験を糧にさらに成長するであろう、日本チームの今後が楽しみです。

西伸幸(にしのぶゆき)

【有限会社エクステンション】

 1985年7月13日生まれ。神奈川県出身の元モーグル日本代表。幼いころから両親の影響でスキーを始める。当時営業していた千葉県船橋市の室内スキー場SSAWS(ザウス)に電車で週3回以上通い詰め技術を磨いた。その後、スキーの名門・長野県白馬高校へ進学すると頭角を現し、高校2年時にJr世界選手権へ出場し、見事優勝。翌年からワールドカップへ転戦。2009年の世界選手権で銀メダルを獲得し、いち早く2010年のバンクーバー五輪出場を決めて初出場を果たすと、その後のソチ、平昌と続き3大会連続出場。世界トップクラスとも言われたハイスピードで正確なターンに定評があり日本チームをけん引した。平昌五輪後に引退し、現在はプロスキーヤーとして活動の他、後進の育成や普及活動などに励んでいる。

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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