内田篤人×冨安健洋スペシャル対談 「サイドバック論」を大いに語ろう
選択肢を2つ、3つと持つことが大事
厳しい戦いが続くアジア最終予選だが、オーストラリア戦は新規導入の4-3-3システムが機能。初先発を飾った田中碧の活躍もあって、難敵に勝利した 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
冨安 2019年のコパ・アメリカで対戦したウルグアイ代表の(エディンソン・)カバーニと(ルイス・)スアレスも強烈でしたけど、ボローニャ時代に何度か戦った、インテルの(ロメル・)ルカクとラウタロ(・マルティネス)の2トップもすごかった。ラウタロもカバーニと一緒で、僕がやろうとしていることを全部分かって消してくるいやらしさがあったし、ルカク(現チェルシー)があれだけの結果を残せるのは、自分の強みをきちんと分かってプレーしているからだと思うんです。
内田 どちらも日本人にはなかなかいないタイプ?
冨安 ラウタロみたいなタイプは、日本人FWが目指すべきところだと思いますけどね。上背はそんなにないけれど、収まるし、展開ができて、点も取れる。
内田 その流れで、日本代表についても聞いていきますね。アジア最終予選はここまで4試合を終えて2勝2敗。次はアウェイ2連戦(11月11日がベトナム戦、16日がオマーン戦)が待っていますね。
冨安 残り6試合はすべて勝たなくてはいけないと思っています。ベトナムとオマーンは、グループ内ではやや力が劣ると見られているかもしれませんが、アウェイですし、それこそオマーンにはホームで負けていますからね(0-1)。気を引き締めて準備をしなきゃいけない。
内田 チーム内に、「追い込まれているな」っていう空気はありますか?
冨安 僕自身がそんな風には感じていませんし、チーム内にもピリついているというか、ネガティブな空気はありませんよ。
内田 だったら、大丈夫だね。見ている側としては心配になるけど、大事なのはやっている選手たちがブレずに、チームとしてひとつになって戦うことだから。ある程度の余裕を持って、変に自分たちで追い込まない方がいい。
冨安 上の人たちにはいろいろと思うところがあるのかもしれませんが、僕が最終予選を戦うのはこれが初めてで、まだ怖いもの知らずというか、それがプラスに働いてくれているような気がします。これからも、あまり考え過ぎずにプレーしたいですね。
内田 前節のオーストラリア戦(ホーム/2-1で勝利)で、システムを従来の4-2-3-1から4-3-3に変えましたが、後ろから見ていて可能性は感じましたか?
冨安 そうですね。ボランチが3枚いることで、特に前半はボールがよく回っていました。個人的には、(田中)碧が中盤に入ったことが大きくて。彼はひとりでゲームの流れを変えられるし、いるといないとでは試合内容がガラッと変わる。碧がいてくれるだけで、楽になる感覚はあります。
内田 ベトナムとは19年のアジアカップ準々決勝で対戦していますが、どんな印象を持っていますか?
冨安 あの試合は1-0の辛勝でした。クイックネスのある選手が多かった印象です。
内田 実際に最終予選を戦ってみて、かなり相手から研究されているなって感じますか?
冨安 もちろん研究はされているんでしょうけど、僕はあまり気にしていません。それは現代サッカーでは当たり前のことなので。研究され、対策されたとしても、試合の中でやり方を変えながら、いかにしてそこを上回れるか。
内田 初戦で戦ったオマーンも、前線の柱である大迫(勇也)選手に仕事をさせないように、しっかりと対策してきましたね。
冨安 選択肢を2つ、3つと持つことが、やはり大事だと思います。道がひとつしかないと、そこをふさがれたら終わりですから。
かつてアーセナルがいた場所に戻りたい
重要なアウェイ2連戦を前にしても、冨安は“普段通り”だった。内田氏も「チーム内にネガティブな空気がなければ大丈夫」と、不安視はしていない 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
冨安 特別に難しいとは感じていません。さっきも言いましたが、いろいろと考え過ぎないようにプレーしていますし。
内田 情報が多いと、逆に普段通りにプレーできなかったりもする。
冨安 はい。正直プレッシャーに関して言えば、アーセナルでやっているときの方が感じているので。
内田 日常的にプレミアのトップレベルでプレーしているからこそ、そうやって余裕が持てるんでしょうね。ただ、肉体的な疲れはないですか? 東京オリンピックからずっと休みなしでしょ? その間には移籍もしたわけだし。
冨安 でも、イタリアにいた頃と比べると、コンディションはかなりいいんです。
内田 それはなぜ?
冨安 練習方法の違いが大きいんだと思います。イタリアでは戦術トレーニングが多くて、練習の中で100パーセントを出さない日が結構あるんですね。それで急に試合で100パーセントを出そうとするから、ケガにつながるケースも少なくない。でもアーセナルは100パーセントを出す練習がほとんどで、それが自分には合っているんでしょうね。
内田 もちろんまだ移籍したばかりだし、アーセナル以上の環境を探すのも難しいとは思いますが、将来的に行きたいクラブとか、プレーしてみたい国はありますか?
冨安 ないですね。アーセナルがかつていた場所に、プレミアのトップだった時代に、僕も一緒に戻りたいだけです。そうなれば、今いるこの場所が世界最高の場所になる。僕にとっては、それがベストですね。
内田 いいなぁ〜、そのコメント。必ず使わせてもらいます(笑)。
冨安 だから、まずは今シーズン、チャンピオンズリーグ(CL)の出場権をぜひとも獲りたいんです。やっぱりCLには出てみたい。日本人選手の過去最高成績は、シャルケ時代の内田さんのベスト4(10-11シーズン)ですよね?
内田 そうだね。プレミアは出場権を獲得すること自体が難しいので大変でしょうが、頑張ってください。さて、今後日本代表のディフェンスリーダーを担っていくのは冨安選手だと、多くの人がそう思っています。本人にその自負はありますか?
冨安 まだないですね。そう言っていただけるのは本当にありがたいですし、そうなっていかなきゃいけないとも思っていますが、現時点では自分のことで精いっぱいなんです。もう少し余裕が出てくれば、きっと周りのことも気にしていけるようになるんでしょうけど。
内田 なるほど。では最後にあらためて、アジア最終予選のアウェイ2連戦に向けた意気込みをお願いします。
冨安 はい。気候も含め、アウェイでは多くの難しい状況に直面するかもしれません。それでも自分たちのサッカーにフォーカスし、やるべきことをやり切れば、アジアの戦いで日本が負けることはないと思っています。必ず勝ち点6を持ち帰ります!
内田 今日はありがとうございました。なにより冨安選手とじっくりSB論を語り合えて、すごく楽しかったです!
1988年3月27日生まれ。静岡県出身。清水東高から2006年に鹿島アントラーズに加入。高卒ルーキーとして1年目からレギュラーを獲得し、07年からのJリーグ3連覇に貢献する。08年の北京五輪に出場し、日本代表に定着。10年南アフリカW杯出場後の7月に、ドイツ・ブンデスリーガの強豪シャルケに移籍する。高い技術と戦術眼を備えた右サイドバックとして活躍し、1年目の10-11シーズンにはCLでのベスト4進出とDFBカップ優勝に尽力した。14年ブラジルW杯は全3試合にフル出場。17年8月にウニオン・ベルリンへ完全移籍。18年シーズンから古巣・鹿島に復帰し、同年のACL初優勝に貢献した。20年8月の現役引退後は、日本サッカー協会が新設した「ロールモデルコーチ」に就任し、後進育成に力を注ぐとともに、テレビ朝日『報道ステーション』でキャスターを、DAZNの冠番組『Atsuto Uchida’s Football Time』でパーソナリティーを務めるなど、多方面で活躍中だ。
1998年11月5日生まれ。福岡県出身。中学生でアビスパ福岡の下部組織に入団。17歳でクラブ史上初の高校生Jリーガーとなると、2016年シーズンのFC東京戦でプロデビューを飾る。18年1月にはベルギー1部のシント=トロイデンに移籍。翌19年の夏にセリエAのボローニャに完全移籍し、右サイドバックやセンターバックとして重宝された。そして今夏、イングランドの名門アーセナルへステップアップ移籍。加入直後から右サイドバックの定位置を確保している。日本代表では16年のAFCU-19選手権で優勝に貢献すると、17年のU-20W杯出場を経て、18年10月12日のパナマ戦でA代表デビュー。瞬く間に代表のセンターバックとして不動の地位を築き、この夏は東京五輪にも出場した。ボランチもこなせる守備のマルチロールで、高さと強さを生かした対人戦もさることながら、ビルドアップ能力や冷静な判断力にも定評がある。日本代表通算26試合・1得点。187センチ・84キロ。