権田修一が語るアウェイ連戦への臨み方 「自信がなければ日本代表の資格はない」

舩木渉

2度目のW杯アジア最終予選だが、正GKとして臨むのは初。しかし、ベンチで見守った9年前の経験が大きいという 【Getty Images】

 来年に迫るカタール・ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選で1勝2敗と窮地に追い込まれた日本代表は、10月12日に埼玉スタジアムで行われたオーストラリア戦に2-1で勝利し、希望をつなげた。しかし、安堵している暇はない。11月11日のベトナム戦、16日のオマーン戦はいずれも敵地でのゲーム。厳しい戦いになることは間違いない。運命の11月アウェイ連戦を前に、日本代表の守護神・権田修一は今、何を思うのか。

マスカットに行った経験があるのは大きい

――カタール・ワールドカップ(W杯)のアジア最終予選が9月に開幕し、日本代表は現時点で2勝2敗です。4試合を終えて、どんなことを感じていますか?

 当然のことではあるんですけど、2次予選と最終予選はまったく別物だと感じています。日本代表はヨーロッパ組が増えてきて、長距離移動とか時差だったり、負担がかなり大きい。オマーン代表は日本との初戦を迎えるにあたって1カ月間合宿をしたそうですが、僕たち日本代表に同じことはできません。やっぱりオマーン戦では準備の部分の差を感じましたね。アジア2次予選では多少準備不足でも、なんとかなっていたところもありましたが、最終予選では同じようにはいきません。

 思い返すと、僕も参加していた(アルベルト・)ザッケローニ監督の頃(2010〜14年)は1試合目が親善試合で、2試合目がW杯予選という日程が多かったんです。なので、1試合目に戦術を確認して、2試合目で大事な試合に臨むというサイクルでした。でも今は、コロナ禍で過密スケジュールとなっている。簡単な状況でないことは分かっていましたけど、アジア最終予選を戦ってみて、あらためて痛感しています。でも、この厳しい状況を乗り越えたいですし、乗り越えられれば、チームとしても、個人としてもさらに成長できるんじゃないかと感じています。

――権田選手にとってW杯アジア最終予選は2度目となりますが、継続的に試合に出る立場として臨むのは今回が初めてです。ブラジルW杯の予選時と比べて、変わったと感じることはありますか?

 ザッケローニ監督にはずっと呼んでもらっていましたけど、4年間ベンチで過ごしていました。試合に出る力がなかったのは自分自身の問題ですけど、ああやって4年間チームに帯同させてもらった経験は、今生きていると感じますね。

 アジア最終予選の難しさはピッチの良し悪しだけでなく、気候や環境面、文化の違いなどもある。でも、すでにブラジルW杯アジア最終予選で「こんなに違うのか」と感じているので、その経験を今回、試合に向けた準備で生かせています。それこそ11月シリーズでは(オマーンの)マスカットに行きますよね。あそこには(12年に)行ったことがあって雰囲気を知っているから、ストレスを感じることはないと思います。

オーストラリア戦に向けてチーム内では…

勝敗に一喜一憂することなく、目の前の試合への準備に最善を尽くすいまの日本代表を、権田は「大人の集団」と呼ぶ 【Getty Images】

――ブラジルW杯の予選当時から年齢を重ね、今では日本代表の中心選手となり、チーム内での立場も変わったのではないでしょうか?

 まず日本代表は昔から基本的に“大人”の集団なんですよね。年齢の話ではなく、選手それぞれが自立していて、自分の考えをしっかり持っているという意味で“大人”なんです。所属クラブで絶対的な地位をつかむために自己主張しなければならなかったり、そうしたことを普段から欧州のトップクラブでやっている選手たちが集まっている。

 誰もが年齢に関係なく必要なことを主張できるし、自分の考えに対して責任を持っている。一方で、若い選手たちが練習後の片付けを率先してやるというような、ちょっと日本人っぽいところもある。僕は日本代表合宿に参加すると毎回「こういう集団っていいな」と思うんです。本当に心強い仲間たち、素晴らしい集団です。

 ただ、日本代表に招集されても、なかなか試合に出られない選手もいます。そうなると選手の心境として難しいときも正直あるんですよね。ましてヨーロッパ組の選手は、所属クラブに戻ったとき、週末の試合で先発から外されてしまうこともある。それでも日本代表に招集されたら「どんな形でも貢献したい」という気持ちで合流したり、日本代表としての誇りを持って戦い続けることが、すごく大事だと思っています。

 10月のオーストラリア戦のベンチの様子を見たら、感じてもらえると思うんですけど、本当にチーム一丸となって戦っていた。後半は日本のサポーターに向かって攻めていたから、僕のところからは左奥に日本のベンチが見えたんです。ゴール裏ではサポーターが応援してくれていて、ピッチではみんなが躍動していて、日本のベンチが一緒に戦っている。あの光景はGKの僕にしか見られないもので、すごく好きなんです。

 やっぱり一体感を持って戦えるのが日本の良さ。そういうチームであり続けられれば、日本代表はもっともっと強くなっていくと思いますし、それは大事にしていきたい部分です。僕自身の日本代表に向き合うスタンスも、昔から何も変わってないですね。

――サウジアラビア戦を落として2敗目を喫してから、今までとは比べものにならないほどの重圧があったのではないかと思います。オーストラリア戦までに練習時間も限られている中で、チームはどんな取り組みをしたのでしょうか?

 チーム内のことを話すのは良くないですけど、事実なのであえて言うと、サウジアラビア戦が終わってから、選手みんなで「もっとこうやっていこう」とか、「次の試合負けられないよ。強い気持ちでやろう」といったミーティングをしたわけではないんです。特別なことは何もしていていない。日本に移動して、(高円宮記念JFA)夢フィールドでリカバリーをして、練習をして……と次の試合に向けていつも通りの準備をしただけ。僕が日本代表の選手たちを“大人”だと感じるのは、ああいうときに傷の舐め合いをするわけでも、「みんなでひとつになろうよ!」みたいに特別な空気を作るわけでも、「もう無理だ」とあきらめているわけでもないところです。

 たしかにサウジアラビア戦に負けたのはショックでしたけど、敗れた時点で、オーストラリアに勝つことが僕たちにとって最大の目標になった。そうなった時点で、全員が次の試合に向けて感覚を研ぎ澄ませ、勝つことから逆算して全力で準備しただけだと思います。みんな、本当に強いですよ。

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著者プロフィール

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。

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