内田篤人×冨安健洋スペシャル対談 「サイドバック論」を大いに語ろう
冨安健洋(右)と内田篤人氏の対談は、「サイドバック論」が大きなテーマに。とりわけビルドアップの方法論に関して、熱いトークが繰り広げられた 【DAZN】
日本代表不動のセンターバックにして、この夏に電撃加入したプレミアリーグの名門アーセナルで右サイドバックの定位置をつかんだ冨安健洋と、かつて日本代表の右サイドバックとして一時代を築き、引退後の現在はキャスターや解説者として活躍する内田篤人氏。苦しい戦いが続く代表チームの現状など話題は多岐に及んだが、なかでも白熱したのが「サイドバック論」だった。
現代サッカーにおけるサイドバックの重要性とは──。世界水準を知る2人だからこその深みのあるトークに、耳を傾けてほしい。
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一番向いているのは3バックの脇
名門アーセナルで右サイドバックの定位置をつかんだ冨安。開幕3連敗とスタートでつまずいたチームは、この若き日本代表の加入後、プレミアリーグ7戦無敗と好調だ 【写真:REX/アフロ】
冨安健洋(以下、冨安) もう移籍して2カ月くらい経ちますからね。家も決まって、だいぶ落ち着きました。
内田 英語の方は?
冨安 まだまだですけど、ベルギー(シント=トロイデン)にいたときも英語を使っていましたし、理解はできるって感じですね。
内田 ちゃんと勉強して偉いなぁ。食事は?
冨安 ロンドンに来てからはシェフを雇っているので、ほぼ毎日和食です(笑)。
内田 アーセナルというクラブの環境面はどうですか? やはり歴史の重みみたいなものを感じる?
冨安 移籍が決まってすぐに代表戦があったので、そのままカタールに向かったんですが(22年W杯アジア最終予選、中国戦。コロナ禍による渡航制限のため会場は中立地のカタールに)、現地のホテルの部屋に入ったら、「アーセナル入団おめでとうございます」っていう、マカロンやフルーツが盛り付けられたプレートが置いてあって。そういうのを見ると、やっぱり違うなぁって思いますよね。
内田 それはすごい(笑)。ちなみに僕、シャルケ時代に(セアド・)コラシナツとチームメートだったんですよ。
冨安 ええ。彼から当時の内田さんのエピソードを聞きましたよ。女性ファンが、マイクロバスを2台くらい連ねてシャルケの練習場に来たって。
内田 ファンツアーみたいなのが毎年あって、多いときで200人くらいかな。ドイツまで来てくれてましたね。
冨安 女性だけですか?
内田 9割以上は。
冨安 本当だったんだ。絶対にウソだと思ってました(笑)。
内田 それはさておき(笑)、アーセナルでは監督やチームメートの信頼を感じながらプレーできていますか?
冨安 (ミケル・)アルテタ監督は練習中もそれ以外のときも、密にコミュニケーションを取ってくれますからね。監督はもちろん、チームメートからも信頼されていると感じています。
内田 ここまでの自己評価は?
冨安 まだ7試合しかプレーしていませんからね。評価はシーズンが終わった段階でしたいと思います。
内田 それでも冨安選手の加入後、アーセナルはプレミアリーグで負けなしですよ(7戦5勝2分け)。
冨安 ただ、(アディショナルタイムに追いついて2-2で引き分けた第8節の)クリスタル・パレス戦は負け試合みたいなものでしたから。
内田 初めて苦戦した?
冨安 うーん、その前節のブライトン戦(0-0)もあんまり良くなかったんですよね。最初の3試合は何も考えず、ただ一生懸命にやっていたんですが、だんだんアルテタ監督のサッカーを理解し、やらなくてはいけないことが分かってくると、頭で考え過ぎてしまって。なので今は、練習では監督の要求にトライしつつ、試合では頭の中をクリアにして思い切ってプレーするといったサイクルで、少しずつパフォーマンスを上げていけるように取り組んでいます。
内田 アーセナルでは4バックの右サイドバック(SB)を任されていますが、自分ではSBとセンターバック(CB)、どっちが向いていると思いますか?
冨安 どっちでもいいんですけど、どこが一番向いているかと言われれば、3バックの脇、右か左かでしょうね。
内田 それは間違いない。3バックだったら、世界のどんなクラブに行っても通用すると思いますよ。
冨安 すごく持ち上げてくれますね(笑)。
サイドバックとして中を使う重要性
ペルー代表のファルファンとコンビを組み、シャルケの右サイドを支えた現役時代の内田氏。1年目の10-11シーズンにはCLベスト4にも大きく貢献した 【写真:ムツ・カワモリ/アフロ】
冨安 ボールを持ったときはそうですね。守備時は完全に4バックの右SBですけど。
内田 右SBとしてこう動いてほしいとか、こういうところに気を付けてくれとか、そういった注文はありますか?
冨安 守備面について多くは言われません。ただ攻撃に関しては、対戦相手に応じて従来型のSB的にプレーしたり、中に絞ってボランチみたいにプレーしたりと、毎試合求められることが変わってきますね。
内田 シャルケ時代の僕は、結構好きにやっていいよって言われていて、チームでも一番ボールに触っていましたよ。多いときで120くらいタッチ数がありましたから。
冨安 それは多いですね。でも現役時代の内田さんには、どちらかというとタッチライン際を上下動する、従来のSBのイメージが強いんですけど。
内田 当時はコンビを組んでいた右サイドハーフがペルー代表のとても良い選手(ジェフェルソン・ファルファン)で、彼と絡んで右サイドから攻めるのが、シャルケのひとつの形だった。その意味でも激しい上下動が必要だったし、それが理に適っていたんですね。逆に日本代表では、左に(攻撃的な)長友(佑都)さんがいたから、右の僕が低い位置でゲームを作るといった具合に、バランスを考えながらやっていました。
冨安 ひとりで行けちゃうタイプのサイドハーフだと、SBが上がったらスペースを消してしまう可能性がありますよね。僕はパサーではなく使われる側なので、本当は行っちゃった方が楽。でも、例えば(単独で突破できる)二コラ・ペペなんかが前にいると、後ろに残ってリスクマネジメントをする必要があるんです。
内田 そこは僕も悩んでいた時期がありました。SBがサポートをしないで、あえて1対1をさせてあげた方が、前の選手は生きるんじゃないか、とか。
冨安 僕は本来CBですし、ライン際を激しく上下動をするタイプのSBでもありませんからね。
内田 でもスピードもパワーもあるし、やろうと思えばやれるでしょ。その上でゲームの作り方も覚えてくると、それはもう飛び抜けた存在になっちゃう(笑)。
冨安 ゲームを作るという部分で、右SBはアーセナルの中でも重要なポジションなんです。後方からのフィードでビルドアップの起点となるか、あるいはもうひとつ前の位置でもらって、2段階目のビルドアップに加わるか。まあ、その両方ができるようになれればいいんですけど。
内田 SBとして、相手のサイドアタッカーと対戦する楽しさを感じたりしますか?
冨安 誰かとのマッチアップを楽しみだと思ったことはないですね。逆に内田さん、ありますか?
内田 ない(笑)。だってそもそも受け身だもん、SBって。やられるの待ちですから。
冨安 最近、SBとして中を使うことの重要性をかなり感じるようになりましたね。結局、縦一辺倒だときついじゃないですか。だから近いサイドのボランチとか、もうひとつ奥のボランチやFWへのパス、もっと言えば逆サイドへの一発のパスが使えるようになれば、だいぶボールロストも減るんじゃないかと。
内田 それは僕もU-18やU-22の日本代表コーチ(ロールモデルコーチ)として、選手たちによく言っています。内田コーチの指導は間違いじゃないってことで、いいですね?(笑)
冨安 はい、正論です(笑)。確かにリスクもあるし、怖いと言えば怖いんですけど、そこを使わないとはがせない。内田さんはビルドアップのとき、どんなことを考えていましたか?
内田 最近って、SBは高い位置でボールをもらえって言われるし、そういう現代サッカーの流れはあるけれど、それだけじゃない。CBと同じラインまで下がっていいから、とりあえずボールを受けて、相手が出てきたら周りをうまく使いながらビルドアップしていくやり方もあると思うんです。結局SBって、周りの動き出しがなければ本当にハマるポジションだから、すごく難しいですよね。
冨安 ただアーセナルに関して言うと、周りが動いてくれないってことは絶対にありません。
内田 そうそう。だから本当に楽しいと思うんだよね、アーセナルでプレーするのは。
冨安 あとは使い分けですね。CBのラインまで下がって受けるか、一発で入れ替われる位置でもらうか。それが中途半端になったときに、やっぱりボールを失ってるなって。