新天地バイエルンでゴール量産も!?  “ニュー熊谷紗希”が見据える欧州制覇

早草紀子

新しい役割を求められるのが新鮮で楽しい

久しぶりの移籍にかなりのエネルギーを使ったようだが、「互いに補い合い、チームとして戦える」バイエルンのサッカーは、熊谷が求めていたものだ 【Getty Images】

──いいですね、それ。ぜひWEリーグでもやってほしいですね。さて、以前のインタビューで「簡単な決断ではなかった」と話していた今回の移籍ですが、実際にバイエルンでプレーをしてみて、いかがですか?

 バイエルンは外から見ているときも、“ひとつのチーム”だなって印象が強かったんですが、中に入ってみると思っていた以上にそうだった(笑)。みんな、めちゃくちゃ仲がいいんですよ。私、移籍をする際に、リヨンという世界屈指のトップクラブで8年間もプレーしていたからこそ、決めていたことがあるんです。それは、「絶対に比べない」ってこと。違って当たり前なんだから、リヨンではああだったとか、そういった概念はすべて捨ててドイツに行こうと。そこはブレないようにしたいですね。

 ただ、あらためて感じたんですが……やっぱり移籍って、ものすごくエネルギーを使いますね(笑)。

──何が一番大変ですか?

 みんなのプレーを知ることも、自分を知ってもらうことも、すべて一からなので。あとは、もろもろの事務手続き!(笑)

──久しぶりの移籍ですからね。でもちょっと新鮮で、懐かしい感じもしませんか?

 まさにそれ! そうだよね、こういう時期ってあったよねって。今はようやく生活が落ち着いてきたところですが、我ながらこの歳でよく決断したなって思います。

──バイエルンのどんなところに“チーム”を感じるのでしょう?

 リヨンには個の能力が高い選手が集まっていて、それが強さを支える源でもあるんです。ただ試合でうまくいかなくなったりすると、チームとしての形に戻るまでにどうしても時間がかかってしまう。それに対してバイエルンは、もちろん素晴らしい選手はたくさんいるけど、良い意味で「自分たちはここが劣っている」と自覚しているから、全員で足りない部分を補い合おうとするんです。だから、うまくいかなかったときのリカバリー力がすごい。まだ数試合しか一緒にプレーしていませんが、そこはすごく感じますね。

──そういうチームって、魅力的ですよね。

 超魅力的! 「こういうサッカーがやりたくてここに来たんだ、私、ナイスチョイス!」って思ってます(笑)。

──今季の開幕から3戦は、ケガ人が出た事情もあってセンターバック(CB)を務めましたが、チームから期待されているのはボランチでのプレーですよね?

 合流してすぐの頃はボランチを任されましたが、しばらくするともう少し前目のポジション、「10番」とトップ下の間、いわゆる「8番」の位置で使われたりするようになりました。そうやって新しい役割を求められるのが、本当に新鮮で楽しいんです。流れの中で、気づいたらサイドに張っていることもあるんですよ。

──確かにそれは新鮮!

 見たことないでしょ?(笑) でも、デビュー戦ではサイドからのクロスでアシストも記録したんですよ。もちろん、急に足が速くなるわけでもないので、もうちょっと時間をかけてなじんでいきたい気持ちもありますが、こんな風にチャレンジするのは楽しいし、これから“新しい熊谷紗希”をもっともっと見せていきたいですね。

「またゴールを決めたの?」って言われるくらいに

バイエルンではCB以外に、ボランチや攻撃的MFとしても起用される。リヨン時代に培った豊かな経験をチームに還元し、新天地でもUWCL制覇を成し遂げたい 【Getty Images】

──もうすぐUWCLが開幕します。熊谷選手はバイエルン移籍が決まったとき、「古巣のリヨンを倒してヨーロッパチャンピオンになりたい」と大きな夢を語っていましたが、さっそく今季のグループステージでリヨンと同組になりましたね(グループD/1グループ4チーム構成で他の2チームはポルトガルのベンフィカとスウェーデンのヘッケン)。

 早い! こんな早く当たらなくてもいいのに(笑)。ただ、今大会からレギュレーションが変更になって、新たにグループステージが導入されましたが、ここでのリヨンとの2試合は負けていいとは言わないけれど、負けたら終わりというわけでもありません(4グループの上位2チーム、計8チームが決勝トーナメントに進出)。この段階で強豪リヨンと戦えるのはチームが成長する上でも大きい。いや〜、とにかく超楽しみですね。

──今季から本戦の出場チームが32から16に減った一方で、グループステージの導入で優勝するまでの試合数は増えました(9試合→11試合)。調整面などに影響はありますか?

 最低でも必ず6試合はできるというのは、どのチームにとってもいいことだと思います。ただ連戦になるので、やはりチームとしての総合力が問われるでしょうね。私自身はもちろん全試合に出るつもりで臨みますけど、控えも含めたすべての選手が良い準備をしていないと、勝ち上がるのは難しいでしょうね。

──バイエルンというチームでプレーする熊谷選手には、これまでにはなかった新たな強みが加わりましたか?

 日本の人たちは「CB熊谷」のイメージが強いと思うんですが、バイエルンでの私は、試合ごとに違うポジションをやっているかもしれません。バイエルンは選手一人ひとりの特徴をうまく生かしたサッカーをするし、自分たちのスタイルは持ちながらも、対戦相手に合わせた柔軟な戦い方もできる。総力戦になるUWCLではなおさら、チームとしてバリエーションに富んだサッカーを見せられるんじゃないかなって思います。

――そしてUWCLは今シーズンからDAZNで全世界配信され、日本でも見られるようになります。

 それはすごくうれしいですよね。今まではヨーロッパでプレーする自分のことを見てもらう機会がほとんどなかったですし、CB以外のポジションでプレーする自分も知られていないと思うんです(笑)。やっぱり選手は見てもらうことでモチベーションが上がりますし、女子サッカーの未来、強化や発展にも大きな意味が出てくると思います。WEリーグもDAZNで見られるようになりましたし、UWCLも日本でサッカーをしている女の子があこがれるような舞台になってほしい。私も活躍する姿をお届けできるように頑張ります。

──では最後に、今季のUWCLに臨む意気込みをお願いします。

 この大会には、リーグ戦とはまた違った特別な重みがあります。リヨンで5回優勝を経験しましたが、新しいチームで再びヨーロッパの頂点に立てたら最強じゃないですか。私はそこしか目指していないので、一つひとつの試合を全力で戦って、最後に笑えたら最高ですね。

──ゴールもたくさん決めちゃってください。

 今は「8番」のポジションだってやってますからね。熊谷は守備の人で、ゴールを奪ったら奇跡だってみんなは思うかもしれないけれど、そんなイメージを払しょくしたい。「また熊谷がゴールを決めたの?」って言われるくらいに……できるかな(笑)。でも、頑張ります!

熊谷紗希(くまがい・さき)

【スポーツナビ】

1990年10月17日生まれ、北海道出身。常盤木学園高で全日本女子ユース3連覇を果たし、2009年に浦和レッドダイヤモンズ・レディースに加入。1年目から主にボランチとして全試合に出場し、リーグ優勝に貢献する。11年にドイツのフランクフルト、13年にフランスの強豪リヨンへ移籍。15-16シーズンのUWCLでは4シーズンぶり3度目の優勝に尽力。このシーズンは国内リーグと国内カップ戦も制し、3冠を達成する。以降、UWCLは19-20シーズンまで5連覇を成し遂げるが、昨季限りでリヨンを退団し、今季からはドイツのバイエルン・ミュンヘンでプレーする。日本代表には高校時代の08年3月に初選出。11年のFIFA女子W杯では、CBのレギュラーとしてチームを初の世界王者へと導いた。翌年のロンドン五輪では銀メダルを獲得。17年からなでしこジャパンの主将を務め、今夏の東京五輪でも全4試合にフル出場した。173センチ・62キロ。

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著者プロフィール

早草紀子

東京工芸短大写真技術科卒業。1993年よりJリーグ撮影を開始。1996年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルカメラマンとなる。以降、サッカー専門誌で培った経験を武器に、サッカー撮影にどっぷり浸かる。現在はJリーグ・大宮アルディージャのオフィシャルフォトブラファーであり、日本サッカー協会オフィシャルウェブサイトでは女子サッカー連載コラムを担当している

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