一方通行のなでしこを、宇津木瑠美が危惧「このままではさらにファン離れが進む」

吉田治良

スウェーデン戦に敗れ、ベスト8で散ったなでしこ。選手は悔しい思いをしているはずだが、果たしてテレビを見ていた人たちは、同じ気持ちを抱いただろうか 【写真は共同】

 グループステージを辛くも3位で突破し、準々決勝に進んだなでしこジャパンだったが、優勝候補の一角スウェーデンに1-3で敗れ、メダル獲得の夢は断たれた。ただ、2011年女子ワールドカップ(W杯)優勝メンバーの宇津木瑠美さんが、勝ち負け以上に気になったのが、テレビの向こうのファンに訴えかける熱量の少なさだ。技術的には素晴らしいものがあると認めながらも、「このままでは昔からのファンが離れ、新しいファンも獲得できない」と危惧する。

私なら最後は熊谷を上げてパワープレーを

右サイドを崩し、最後は田中が決めた23分のゴールは見事だった。だが、国際大会で重要なのは点の取り方ではなく、いかに失点をせず、勝ちを引き寄せるかだ 【写真は共同】

 試合が始まってすぐに、チームとしての経験不足を感じましたね。

 どんなに途中のゲームワークがうまくても、前半と後半の立ち上がり(7分と53分)に失点してしまうと、それを取り返すのが難しいというのは、サッカーの定石であり、鉄則ですから。

 現在のなでしこの一番の良さは攻撃面にあって、田中(美南)選手の同点ゴール(23分)もそうですが、大会を通して、得点シーンには個人のスキルやアイデアが詰まっていました。

 ただ、これは練習試合ではなく、オリンピックなんです。自分たちがどんなふうに点を取ったか、ということ以上に大切にすべきは、いかに失点をせず、勝ちゲームに持っていくか、なんです。そこにもっとこだわっていかないと。

 得点シーンだけを見れば素晴らしいですが、それ以外の“なんてことのない時間帯”をもう少しうまくコントロールしなくては、ワンランクレベルが上がる決勝トーナメントで、強豪スウェーデンを相手に勝つことは難しい。

 1-3とリードされ、残り10分、5分となった状況で、簡単にセカンドボールを相手に拾われたり、終了間際に岩渕(真奈)選手がミドルシュートを打ちましたけど、GKが弾いたボールを、先にスウェーデンの選手に触られたりするのは、やっぱりおかしいんです。

 今のなでしこの選手たちのサイズ感も踏まえた上で、このオリンピックを戦っているわけで、そこは言い訳にできません。そのウイークポイントをどう補って、ポジティブな方向に持っていくかを考えないと、この先も厳しいんじゃないかと思ってしまいます。

 フィジカル的なことで言えば、かつての宮間(あや)選手や大野(忍)選手も、現在の岩渕選手とサイズ的にはほとんど変わらなかった。そして、ここから急激に日本人の身長が伸びることもないでしょう。

 だとすれば、もちろんダンプカーに真正面からぶつかって行っても潰されるだけですが、例えば相手の足がボールから離れた瞬間のように、100パーセントのパワーが乗っていない状態を見定めてタックルを仕掛けるなど、チームとしてもっと工夫をしていれば、防げた失点もあったはずなんです。

 自分たちがどこで相手を上回れるかということを、これまで苦手としてきた「ボールを持っていない時間帯」でも探していかなければいけません。

 スウェーデン戦では、選手交代に疑問もありました。

 もちろん高倉(麻子)監督と選手の間の信頼関係の上に成り立っているのでしょうが、もし私が監督なら、1-3の状況からはディフェンダーやボランチではなく、アタッカーを入れると思うし、最後はセンターバックの熊谷(紗希)選手を上げて、パワープレーを仕掛けたかもしれません。それでさらに失点したとしても、私なら前を向いて終わりたい。きっと、テレビの前の人たちもそう思ったのではないでしょうか。この試合はベンチ外でしたが、長身の菅澤(優衣香)選手を入れて、ロングボールを放り込めば、何かが起こったかもしれません。

 残り10分じゃゴールは取れないよ、って見ている人にそう思わせるようなサッカーはしたくない。0-5だろうが0-10だろうが、10分あれば必ず1点は取ってみせるよ、って気概を見せることも、国を代表する選手たちには必要なんです。

 このコロナ禍で、たくさんの人がリスクを犯しながら、大会開催に尽力されている。その努力のおかげで、自分たちはサッカーができているんだって思いを、もっと私たちに訴えかけてほしかったですね。

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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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