日本バドミントン界は一丸となれるか パリ五輪へ…待ち受ける険しい道

平野貴也

厳しい結果に朴ヘッドコーチが謝罪

金メダルが期待された桃田賢斗はまさかの予選ラウンド敗退。チームに動揺が走り、続く選手のプレッシャーになったか 【写真:ロイター/アフロ】

 記者会見の壇上に、悲痛な面持ちの指導者の姿があった。バドミントン日本代表は、過去最強の陣容で東京五輪に挑んだが、銅メダル1個という成績で前回の金・銅を下回った。2019年の世界選手権では、金2個、銀3個、銅1個と5種目すべてのメダルを獲得。男子シングルスの桃田賢斗、女子シングルスの奥原希望、女子ダブルスの松本麻佑/永原和可那は、世界選手権の覇者。これに加えて、女子シングルスの山口茜、女子ダブルスの福島由紀/廣田彩花も世界ランク1位経験者。これ以上ない陣容となり、東京五輪ではメダル量産が期待されていた。しかし、大会日程を3日残して敗退。厳しい結果に終わった。
 3日、混合ダブルスで日本勢初のメダリストとなった渡辺勇大/東野有紗とともに記者会見に出席した朴柱奉ヘッドコーチ(以下、HC)は「本当に、今の気持ちは、渡辺/東野選手の前では(表現するのが)難しいが、悔しい気持ちでいっぱい」と元気のない声で話した。2人の選手のことを考えれば、笑顔で祝福したい。しかし、自分の立場を考えればどうしても笑顔にはなれない、そんな思いが伝わってきた。

 会場から退出する際には、誰に促されるでもなく、記者の方へ歩み寄り、真剣な表情で「すいませんでした」と言って頭を下げた。記者に謝る必要などないが、誠実な思いが伝わってくる瞬間だった。

 試合を見る限り、日本の選手はプレッシャーに負けた印象だ。金メダル最有力候補だった桃田は、明らかに雰囲気にのまれてアップセットを許した。第1ゲームの10-5から悪い流れを3、4失点で止めることができずに10連続失点で大逆襲を受けた場面を朴HCは「普通の桃田選手ではなかった」と評した。そして、彼だけが日本で唯一、予選ラウンドで敗退した結果は「この試合から、チーム全体的にも雰囲気が良くなかったです」と後に続く選手のプレッシャーになったであろうとの見解も示した。

一枚岩になれない、現場以外の綻びも

大会前、朴HC(中央)はメンタルコントロールの重要性を指摘していたが、その心配は的中してしまった…… 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 朴HCは、大会前から13人中10人が初出場であることに触れ、五輪という大舞台でのメンタルコントロールの重要性を指摘していた。この心配が完全に的中した。朴HCが挙げた要因は、コロナ禍による1年延期で実戦から長く離れたことだった。当然、対戦国も同じ状況にあったが「日本の選手は、昔から、大会に参加して自信を上げるタイプ」と話した。いわゆる試合勘のなさが原因で自信を持てなかったということになるが、コロナ禍が与えた感覚の違いは、それだけではないはずだ。

 朴HCが就任したのは、2004年11月。アテネ五輪で1勝しか挙げられなかった日本を改革した。所属先から選手を招集して代表合宿で強化する期間を大幅に増やし、代表選手同士の競争や刺激を生み出した。朴HCは、バドミントンが初めて五輪で正式競技となった1992年バルセロナ五輪の金メダリスト。世界の頂点を知る熱血漢の指導で、12年ロンドン五輪の藤井瑞希/垣岩令佳の銀、16年リオデジャネイロ五輪の高橋礼華/松友美佐紀の金とチームは徐々に成績を挙げてきた。継続的な代表合宿こそが、朴HC体制における強化の生命線だ。

 しかし、コロナ禍では当初、代表合宿が思うように実施できなかった。日本バドミントン協会が代表活動再開に向けた方針を明かしたのは、20年5月末だった。理事会後に銭谷欣治専務理事が取材に応じ、3週間後から代表合宿を再開すると話した。ところが、この合宿は、間もなく中止が発表された。その後も7月、8月と代表合宿の予定を組んでは中止となった。選手の所属先であるチーム、つまり会社の方針で選手の派遣を見送るケースが多かったからだ。

 それ自体は仕方がない面もある。ただ、日程を組んでは中止となる繰り返しの中に、協会、代表チーム、選手所属先の連係面で一枚岩になれていない、綻(ほころ)びも感じた。コンセンサスが取れていなかったのではないだろうか。朴HCは数カ月、所属先での活動を視察することしかできなかった。選手が実戦感覚を失っただけでなく、指導陣も選手のコンディション把握に苦労し、調整感覚を失っていた可能性がある。

 今大会の敗因がプレッシャーであるとした場合、まずは選手やコーチングスタッフといった現場が改善の対象となる。求める、あるいは求められる結果を出すために、選手はもっとタフでなければならなかったし、スタッフはサポートの仕方をより工夫すべきだったということになる。それが不可能なら、選手選考の方法や、スタッフの人選を考えなければならない。ただ、五輪以外の大会では、これ以上ないほどの好成績だ。サポートは十分だったか。現場以外の綻びが影響した可能性はないのだろうか。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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