なぜ防災活動にJクラブが関わるのか? ソナエル東海杯(沼津・藤枝・清水)

宇都宮徹壱

「最下位脱出」というミッションから得たもの…藤枝の場合

今年5月、ホームタウンのひとつ牧之原市が竜巻被害に見舞われ、藤枝の選手が募金活動をしている 【写真提供:藤枝MYFC】

「結果を見ると、もう少し頑張れば清水さんに追いついたんですよね。沼津さんもウチも、今季はあまり勝てていないので、山崎さんとは電話で『3連敗中の沼津です』『ようやくホーム初勝利の藤枝です』みたいなやりとりをしていました(笑)。今回、順位では上に立てましたので、この次は電話で何て言おうか考え中です」

 そう語るのは、藤枝MYFCのホームタウン推進部主任、池田尚美さん。期間中、ずっと最下位に甘んじていた藤枝だったが、全体の12%に当たる300人の受験者数を獲得。気がつけば、4位の清水に迫る5位でフィニッシュした。

「私たちのホームタウンは、藤枝市のほかに3市2町。今年5月には牧之原市で竜巻被害があって、選手が募金活動をしたばかりでした。海沿いの焼津市は津波のリスクがありますし、川根本町は山あいにあるので雨が続くと土砂災害の危険を考えないといけません。それほど広域なホームタウンではないのですが、地域によって防災の課題が異なるという事情を抱えています」

 ホームタウンの地域課題について、このように語る池田さん。ソナエル東海での具体的な取り組みについて尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「地元パートナー企業が開発した、災害時に使えるパーテーションをご提供いただいて、お子さん向けの遊戯のアイテムとして活用させていただきました。迷路にしたり、ドリブル大会をしたり。もちろん、防災の話もさせていただきました。最初は難しいかなとも思ったのですが、子供たちから『これは何でできているの?』とか『もっと聞かせて!』とか、意外と食いつきは良かったですね」

 藤枝の場合、同じJ3のライバルである沼津に比べて、それほど防災意識が高かったわけではない。そうした中、藤枝のモチベーションとなったのは「最下位脱出」。この目的をクラブ内で共有できたことが、5位という結果につながったと池田さんは笑顔で語る。

「なかなか順位が上がらなかったので、ホームゲームの受付でアピールしたり、スポンサー営業のときにソナエル受験の手順をまとめたチラシを撒いたり、ありとあらゆることをやっていましたね。それらが功を奏しての5位でしたから、スタッフ全員で盛り上がりました(笑)。ソナエル東海を通して、行政や地域の皆さんとも関係性を築くことができましたし、私自身も大いに勉強させていただいたので、やって良かったと思っています」

防災意識が高い県ゆえの課題とは?…清水の場合

清水は、静岡市の3区(葵、駿河、清水)のマスコットにパルちゃんを加えた、クイズ形式の動画を製作 【写真提供:清水エスパルス】

 意外な結果に終わったのが、4位の清水エスパルスである。受験者数は358名で全体の14%、追いすがる藤枝をJ1クラブの意地で、辛くも振り切った格好だ。清水を含む静岡市と言えば、昭和の時代から防災意識が高いことで知られている。振るわなかった要因について、ホームタウン営業部社会連携担当の小池拓也さんに話を聞いた。

「おっしゃるとおり、静岡市では昔から『いつか東海地震が起こる』と言われていました。ここで育った市民は、小学生のときから何度も避難訓練を経験していますから、防災に対する意識はもともと高いはずなんですよ。でも『来る、来る』と言われながら、ずっと地震は起こっていないわけで、正常バイアスみたいなものがあるのかもしれないですね」

 それでもいざ地震となれば、やはり津波のリスクは考えなければならない。静岡市の地理的な課題について、地元出身の小池さんはこう説明する。

「静岡市は海に面していて、しかも平らな地形になっていますので、津波がきたら甚大な被害となることは容易に想像できます。われわれのクラブハウスも、三保の先の方ですので、10年前の東日本大震災ではけっこう揺れたそうです。地震や津波だけでなく、夏場から秋にかけては台風で、道路が冠水することもありますね」

 そんな中、クラブとして取り組んだのが、行政とタッグを組んでの防災啓発動画。静岡市の3区(葵、駿河、清水)のマスコットにパルちゃんを加えたクイズ形式の動画は、地元テレビや動画サイトなどで展開された。またクラブパートナーの中に、防災関連商材を扱っている会社があったので、クラブのオンラインストアでも紹介したそうだ(サイトリニューアルのため、現在は見られない)。個人的に印象に残ったのが、小池さんのこの証言である。

「静岡と言えば、エスパルスと『ちびまる子ちゃん』が有名です。静岡市の名刺にも、ちびまる子ちゃんのイラストが入っているのですが、わりとハードルが高いらしいんですよ。それもあって、行政の皆さんは『エスパルスに頼みたいけれど、難しいのかな?』と思われていたみたいです。ですので、われわれの方から『積極的に使ってください』と申し上げました」

 小池さんによれば、これまでクラブとあまり接点のなかった地域総務課や危機管理課の職員からも『もっと使っていいんですね!』と言ってもらえるようになったとのこと。もともとシャレン!は「Jリーグをつかおう」を合言葉にスタートした。確かに、順位こそ振るわなかった清水。それでも、地域との連携を深めることができたという一点において、今回のソナエル東海は十分に意義あるものだったと言えそうだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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