長友佑都が抱える危機感と揺るがない自信 すべては22年W杯から逆算して決める

西川結城

自身を進化させることに余念のない長友。今はフィジカルだけでなく、頭の中も鍛えているという 【スポーツナビ】

 ガラタサライで約9カ月間、実戦から遠かったとき、誰もが思ったに違いない。長友佑都の欧州でのキャリアも終わりを迎えるに違いない、と。しかし、マルセイユで長友は復活を遂げるとともに、日本代表でも圧倒的なパフォーマンスを披露した。35歳を目前にして進化をやめない左サイドバックは、どこに向かおうとしているのか。キャリアと日本代表について聞いた。

この1年で意識したのは“サッカー脳”の強化

――先日マルセイユ退団の発表がありましたが、名門クラブでこの1シーズン大きな経験をされたと思います。加入前に在籍したトルコのガラタサライでは約9カ月プレーをしていない(メンバー登録外)時期も過ごしました。

 サッカー人生で9カ月もプレーしていないことは初めてで、実際に自分がどこまでコンディションが落ちているのかわからない状態でした。さらにトルコからフランスというよりハイレベルなリーグへの移籍を選び、まさにチャレンジでした。最初は自分のイメージと実際のプレーのギャップがありました。

 僕はサイドバックなので体にキレがないと、フランスリーグに多くいるアフリカ系の選手たちと対峙したとき、身体能力の差でやられてしまいます。頭ではわかっていても、体がついてこない。よく試合勘と言いますが、あらためてその意味がわかりました。やはり試合をやっていかないと、フィジカルも意識も研ぎ澄まされないなと実感しました。

――フランスリーグはフィジカル的にもタフな場です。またマルセイユはファンも熱狂的な反面、チームや選手へのプレッシャーもかなり大きかったでしょう。

 実際にファンが暴動を起こすこともありました。プレッシャーが大きいなかで、自分のパフォーマンスが発揮できない場合は批判もされました。僕らは特に外国籍の選手でいわば助っ人です。そこでいいプレーができないと、ファンのフラストレーションの矛先になるのは当然です。

 ただ、そうした困難のなかにこそ成長もあると思っています。厳しいリーグや環境に挑戦しないと得られない経験です。その成長の先にあるのが2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)です。出場して日本に貢献するという目標を成し遂げられるのかと考えたときに、やっぱりこの厳しい環境で戦っていこうと判断しました。自分のプレーをまた現状まで上げることができましたし、まだまだ満足はできませんが、この選択は正解だったと思っています。

――マルセイユで尻上がりに状態が上がりましたが、自然とプレーしていくうちにアジャストしていったのか、それとも何か特別な取り組みをしたのですか?

 フィジカル面は、練習量をこなし、試合を繰り返してコンディションを上げていくしかなかったです。ただ、ここで僕が意識したのが“サッカー脳”の部分でした。現代フットボールをあらためて理解すること。例えばサイドバックであれば、いまでは多彩な動きや位置取りが求められます。いまのサッカーをしっかり理解し、ボールを使ったイメージトレーニングをしていく。この流れは過去の自分の練習から大きく変わったところだと思います。

――午前のチーム練習以外に午後は自主練習を取り入れたようですが、その自主練の時間は“サッカー脳”を鍛えることにも当てていたのですか?

 フィジカルトレーニングを追加することもありましたが、基本的にはサッカーを研究する、そして、それをピッチにどう落とし込むかという技術練習をしていました。僕はこれまでサッカー自体を映像で見るタイプではなかったんです。例えば、自分のプレーを見るのが嫌いでした。ただ、それを変えました。いまはハイレベルの試合も自分のプレーもしっかり見て、いろいろ研究するようになりました。なぜミスをしたのか、その原因を考えないことには進歩はないので、そこは徹底して取り組みました。

各駅停車が停まる駅から大きな乗換駅に

マルセイユでは厳しいファンやメディアから批判も浴びたが、尻上がりに調子を上げて成長を遂げた 【Getty Images】

――具体的にどんな映像を見ることが多かったのですか?

 自分がプレーした試合映像は見ます。加えて、サイドバックのトップレベルの選手たちのプレーも見ています。自分のプレーとどう違うのか研究していますね。例えば、マンチェスター・シティのようにサイドの選手が幅を取るだけではなく中に入る位置取りや、インナーラップをしかけていくプレーは、現代フットボールの特徴の代表例だと思います。

 僕自身、これまで「サイドバックはこう動かないといけない」という固定概念に縛られてきたところがありました。「タッチライン際を縦に上下動する、それが自分のプレーだ」という考えに凝り固まりすぎていました。でもトップレベルの選手たちはいまやサイドバックの動きに縛られていないですよね。

――サイドバックはこれまで味方から“使われる立場”になることが多かったですが、現代フットボールでは味方を“使う立場”にも変貌しています。

 外に張り付いた位置取りだけではなく、チームの中でパスをつなぐためのコースに顔を出していくことで、そこから味方を使うこともできます。わかりやすく言うと、僕がこれまで立っていた場所は各駅列車が停まる駅であるのに対して、トップレベルのサイドバックは新宿や渋谷のようなたくさんの路線が行き来している駅です。つまり、ボールを受けたときに、彼らはいろんなルートのパスコースやプレー選択があるポジショニングを取っているのです。

 この差は本当に大きいと痛感しました。僕もハイレベルの選手の映像を見ては、自分も大きな乗換駅になって、いろんな場所(味方)の経由地になれるようなポジショニングをいまは意識しています。これを学べたことで、また一気にプレーの視野が広がりました。

――もはやタッチライン際を走るだけが長友佑都ではないということですね。

 サイドバックが敵と味方の位置を見て最適な場所を取れるかどうかは、未来の景色を見る力で変わります。自分だけを主語にすると、パスを受けた後にプレー選択を考えるようになります。それではもう、現代フットボールでは遅いですよね。相手のレベルが上がれば上がるほどパスコースを閉じるスピードは速くなります。

 未来の景色を見ながら、敵と味方がどこに動いて、その中で自分がどこにポジションを取るべきか。未来の景色とは、ゴールを決めることです。そこからの逆算で立ち位置を決める。僕はこの学びを経て、自分のパフォーマンスを上げていった実感があります。

――長友選手は守備戦術が細かいイタリアでのプレーが長かったので、主に守備面ではこれまでもチーム戦術の中で多くの学びがあったかと思います。ただ攻撃面に関して、この1年で自分の中で改革が起きた感覚でしょうか?

 そこがまさに僕の課題でした。若いときは運動量とスピードで相手の先手を取ることができていました。いまは能力の高い選手たちと戦う場合、いかにポジショニングや位置取り、つまり“サッカー脳”で勝負するかが大事になってきました。スピードやフィジカルで勝っていれば、ボールを受ける前にいろいろ考えなくても相手をかわせます。でも、相手に能力で上回れると、もう何もできなくなります。いまの僕の場合、ボールを受けた時点で目の前の敵との勝負を終えていないといけないのです。

――“サッカー脳”を鍛えるべくさまざまなインプットをして、それをすぐにピッチでアウトプットし、パフォーマンスを向上させていく。インプットからアウトプットまでのスピード感が長友選手は速い印象を受けます。

 アウトプットしてこそ、インプットの価値が生まれるものだと思っています。ひとつは、若い選手だとこうして学ぶ際にも『あれもこれも』と慌ててしまうところはあるかもしれません。ただ僕はこれまで積み上げてきた経験があり、ここで自分が何をするべきかに関しては一番自分が理解しているので、そうしたいい意味での余裕みたいなものがまた成長を促してくれているのかもしれないです。

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著者プロフィール

サッカー専門新聞『EL GOLAZO』を発行する(株)スクワッドの記者兼事業開発部統括マネージャー。名古屋グランパス担当時代は、本田圭佑や吉田麻也を若い時代から取材する機会に恵まれる。その後川崎フロンターレ、FC東京、日本代表担当を歴任。その他に『Number』や新聞各紙にも寄稿してきた。現在は『EL GOLAZO』の事業コンテンツ制作や営業施策に関わる。

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