プロ野球・チーム別前半戦MVP

里崎智也が混戦のパ・リーグを分析 各球団の「前半戦MVP」も選出!

前田恵

4位の福岡ソフトバンクは大健闘と言ってもいい

前半戦は“飛車角抜き”の状態でも5割キープの福岡ソフトバンク。柳田悠岐の存在が大きかったと里崎氏は話す 【写真は共同】

――ここからは前半戦Bクラスに入ります。昨季日本一で今季も下馬評の高かった福岡ソフトバンクが、4位で折り返すことになりました。

 いやいや、あれだけケガ人が出ているのに、健闘していると思いますよ。ヨソのチームだったら、最下位になっていてもおかしくない。一時期リリーフのモイネロ、森(唯斗)、主軸のデスパイネ、グラシアルが丸々いなかった。それに加えて、侍ジャパンのエース(千賀滉大)がおらず、野手もケガ人だらけという状態。あれでよく頑張っています。

――やはりソフトバンクは層が厚いということでしょうか。

 層が厚いうえ、トップの人が突き抜けているからですよ。柳田(悠岐)とかね。彼らがしっかり、チームをけん引しています。だからパ・リーグ6球団で最も公式戦中断期間が効くのがソフトバンクではないでしょうか。五輪予選から戻ってきたばかりのモイネロも、もう一度調整し直せますしね。
――埼玉西武も、ケガ人に泣かされましたね。

 ケガとコロナのダブルパンチに見舞われた時期の、マイナスが大きかったですね。それでも外崎(修汰)、山川(穂高)の主力2人を故障で欠いて、代わりに使った呉(念庭)、若林(楽人)、愛斗、山田(遥風)といった選手たちが期待以上に働いてくれた。それはケガの功名だったといえるでしょう。呉のバッティングが好調で、山川がスタメンを外れるときもありました。その中では、若林のケガ(左膝前十字じん帯損傷)がもったいなかった。新人王候補に名乗りを上げる可能性もあったのにね。

――このチームは相変わらず打高投低で、総失点356は12球団ワースト、チーム防御率4.02はリーグ最下位です。

 もうずっと言われていることですが、西武は先発投手さえ頑張ってくれればいいんですよ。?橋光成は安定感が出てずいぶんよくなってきたし、先発陣さえ整備できれば、打線はいい感じなので、まだ上を目指せると思います。問題は抑えの増田(達至)の不在ですね。ギャレットも投げてみなければわからないし、今は平良(海馬)におんぶに抱っこ。どうやって平良につなげるか、後半戦はそこもカギになります。
――前半戦、ずっと最下位に沈んでいる北海道日本ハムはいかがでしょうか。

 来季に向けて、若手をどんどん育ててほしいと思います。いや、でも実際、日本ハムは若手が頑張っていますよ。リリーフの堀(瑞輝)、河野(竜生)、立野(和明)や、内野の高濱(祐仁)、野村(佑希)と、生きのいい選手たちがガンガンアピールしています。ただ若い選手は安定感がなく、まだまだ粗削り。「いいとき」がなかなか続かないんですよ。だから、彼らに任せっきりで好きなようにプレーさせていては、無駄なミスが増えてしまいます。そこは組織として攻走守の決まりごとを統率し、しなくてもいいミスをなくすようにしてほしいですね。

――それも来季に向けて、ですか?

 いえ、まだAクラスまではチャンスがありますよ。本来、あの若手を中田(翔)、大田(泰示)といったベテランがうまく締めてくれれば打線もうまくつながるのでしょうが、中田はケガ、大田は不調。先発ローテーションも盤石とはいえないので、全体的にはなかなか厳しい。ただ、若手選手が大化けしたら、大いに可能性はあると思います。

混戦のパ・リーグを抜け出すポイントは?

後半戦は各チームのリリーフ陣がカギを握ると話す里崎氏。オリックスは果たしてこのまま逃げ切れるのか? 【写真は共同】

――ではその日本ハムから順に、里崎さんの選ぶ前半戦MVPを教えてください。

 僕はあくまでも、曖昧な主観を排除して成績を基準に選びます。「この選手が頑張っている」というプロセスはどうでもいい。数字を残せている選手が結果、すごいんですから。日本ハムは、伊藤大海ですね。制球力もいいし、ストレートの威力があって、かつスライダーという決め球もある。制球力がいい=安定感がある、ということ。それに加えて球の力があるので、今の成績が出ていると思います。

 西武は呉念庭。得点圏打率はリーグトップで、初のオールスターゲームにも出場しました。ソフトバンクは柳田。理由は前述したとおり、一人で突き抜けて、チームを引っ張っているからです。

 ロッテはマーティン。ホームランが打てるのが魅力ですが、強肩を生かした守備でもチームを何度も救っています。楽天は島内、岡島でしょう。なんといっても前半戦、リーグ打点王と打率2位のコンビですからね。

――最後に首位・オリックスの前半戦MVPをお願いします。

 ここは杉本でしょう。投高打低で勝てなかったチームが、打撃で勝てるようになりました。その要因は、やはり杉本の台頭。打線の援護がなかったら、宮城だってあそこまで勝ち星を挙げていないかもしれない。それを考えると、杉本に軍配を上げてもいいと思います。

――後半戦の見通しはいかがですか?

 どのチームも絶対感はないんですよね。だから、どのチームが突き抜けられるかだと思います。今のパは連勝したらすぐ上位に行くし、連敗したらあっという間にBクラス。多少の連敗はまだしも、大型連敗は許されません。それには、「チームの核」となるエースが確実に勝つこと。エースが“勝たなければいけない試合”にきちんと勝ってくれれば、大型連敗はしないものです。結局、最終的な順位付けは、僅差で負けている試合を踏ん張りながら引っ繰り返せるかどうか。ということはリリーフ陣がかなり大事な要素で、オリックスはそこを改善して後半戦に臨まないと、せっかくいい流れを作って勝ってきた先発陣に無理をさせることになるでしょう。

(企画構成:株式会社スリーライト)

里崎智也(さとざき・ともや)

1976年5月20日生まれ。徳島県出身。鳴門工業高から帝京大を経て、1998年にドラフト2位で千葉ロッテマリーンズに入団。思い切りのいい打撃と堅実な守備で捕手として活躍。2005年にリーグ優勝と日本一、2010年には「史上最大の下克上」と呼ばれたリーグ3位からの日本一に貢献。2006年のWBCでは正捕手として王ジャパンを世界一に導き、2008年は北京五輪に出場した。14年に現役を引退し、切れ味鋭い的確な解説で野球解説者として活動しながら、テレビ、ラジオ、書籍など幅広い分野でマルチに活躍中。

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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