ベイスターズ再建録―「継承と革新」その途上の10年―

トラックマン導入、ドラフト&助っ人戦略… DeNAが推し進めた「IT改革」

二宮寿朗
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2018年シーズンに合わせ、獲得したのが2年連続本塁打王となる、あのネフタリ・ソト(写真右)であった 【写真は共同】

 壁谷周介は華々しい経歴を誇る。
 
 一橋大学卒業後にソニー、ボストン・コンサルティング・グループを経て2012年に「まさにビビッときて」横浜DeNAベイスターズに入社。高校ではラグビーを経験しているスポーツマンだが、野球については「草野球程度」であった。だがスポーツビジネスに惹かれるものがあり、迷うことなく異業種に飛び込んだ。

 野球振興や社長案件を手掛ける「地域貢献室兼社長室室長」の仕事だけでも忙しいのに、仕事を始めて3カ月ほどで池田純社長から「チームのIT周りを何とかしてくれ」と頼まれ、チーム企画室室長まで肩書きに加わった。だがメンバーは誰もいない。要は、一人で頑張ってくれということだった。

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 横浜スタジアムにはビデオルームがある。
 
 トントン。

 ビデオルームの担当者に「何か困っていることがあったら言ってください」と伝えてみる。でも「うーん、特に困ったことはないですね」とつれない返答。警戒心は多少なりとも感じたが、何も敬遠されているわけではなかった。試合や練習の映像をここで編集しているのだが、改善の余地はたくさんあった。とはいえ、頭ごなしにやろうとしたら“野球を知らないヤツが土足で踏み込んできた”と反発されるだけ。便利になれば、受け入れてもらいやすくなる。まずは担当者の仕事がやりやすくなることを考えた。

 2012年シーズンのオフに入るとシステム化、データ化を進めてPC上で簡単に検索して映像を見られるようにした。これだといちいちDVDに焼いてコーチや選手に渡さないで済むし、簡単にアクセスできるため情報の共有化も図れる。スローモーション機能や2画面での比較機能などを盛り込むと、「凄い助かる」と壁谷の評判が広がっていく。

 編成面において毎年、勝負となるのが「ドラフト会議」だ。高田繁GMの方針は、いい選手を獲得してしっかりと育て上げること。膨大なアマチュア選手の映像をクラウドシステムにアップロードすることができるようになると、出社して映像を球団事務所にあるHDDレコーダーにダビングする必要がなくなった。高田がスカウト会議を待たずにいつでもどこでもアマチュア選手の映像を見て、必要に応じてスカウトに質問できるようになった。
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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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