連載:テニス全仏オープンの見どころはここだ!

ダバディ氏が考える大坂なおみの抗議行動 「スポーツに政治を持ち込むな」は的外れ

フローラン・ダバディ
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7枚のマスクを用意し、決勝まで勝ち上がり、2度目の優勝を果たした大坂なおみ。フランスでも「本物のスターの誕生」との期待が高まっているという 【Getty Images】

 今年最後のグランドスラムとなる全仏オープンが9月27日に開幕する。直前に行われた全米オープンで2年ぶりの優勝を遂げた大坂なおみの欠場は残念だが、フランスをはじめとした海外では、大坂はどのように評価されているのか。彼女が全米オープンで行った人種差別抗議活動(人種差別の犠牲となった黒人の方々の名前を記した7枚の黒いマスクを付けた)には、どんな意義があるのか。WOWOWのグランドスラム中継のナビゲーターを15年務め、今回もすでに現地入りしているフローラン・ダバディ氏に自身の考えをうかがった。

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本物の女王になるのは1年後か2年後か

 パンデミックで中断されていたツアーが再開されて以降、なおみへの評価は非常に高まりました。アメリカの『ニューヨークタイムズ』、イギリスの『ガーディアン』、フランスは『レキップ』のほか新聞全般に目を通しましたが、“右寄り・左寄り”にかかわらず「本物のスターの誕生」という論調で称える記事ばかりです。

 2年前の全米オープンと翌年の全豪オープンに続けて優勝した力はフロックではありませんが、本当のスターのオーラを醸し出せるかどうかという点では、懐疑的なメディアもありました。実際、昨年はスランプも長かったわけですが、今回の全米オープンでまた強いなおみが帰って来ただけじゃなく、『BLACK LIVES MATTER』の活動で強烈なアイデンティティーとメッセージを発信した。

 そのメッセージはタイムリーだったし、スポンサーであるナイキもその路線でのプロモーションを明確に打ち出していますよね。ラッパーの恋人、コーデー君ともケミストリーがいいように感じますし、周りも含めてすべてが彼女を押し出している印象です。

 メディアがそうした女子選手をずっと求めていたという背景もあります。長年、セリーナ・ウィリアムズがその地位にいましたが、あとに続く選手がいなかった。もうすぐ39歳になるセリーナはプレーヤーとして明らかに苦しくなってきているので、その中で自然となおみが女子テニス界のクイーンになりつつあります。

 ただ、プレーヤーとしてはまだ完全に認められているとは言えない。今のところタイトルはすべてハードコートで、クレーや芝では結果を出していません。完全に「どこからでもかかってこい」というような安定感はまだないですよね。

 特にフランス人の観客は、ローラン・ギャロス(全仏オープンの会場)で結果を出していない選手に対して冷たいところがある。スライスやドロップやボレーなどを織り交ぜたスペクタクルなテニスは、彼らが好きなプレーであると同時に、なおみがクレーや芝で勝っていくためにももっと磨いていく必要のあるものでしょう。

 現時点では強烈なアイデンティティーがやや先行してはいますが、今はそれで問題ないと考えています。いつかテニスが完全に追いついて、本物の女王になるのは1年後なのか2年後なのかは分かりませんが、確実にそこに向かって進んでいますから。

オリンピック自体がすべて政治

大好きな母親が挑んできた気高い戦いを今は自分が背負っている、という印象を受けるとダバディ氏は語る 【Getty Images】

 日本では昔から「スポーツに政治を持ち込むな」と言われ、その風潮が今でも西洋に比べて圧倒的に強いです。スポーツもソフト・パワーのひとつだから、そこに政治的要素があることは当たり前のこととして西洋では受け入れられています。
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