連載:コロナで変わる野球界の未来

新興校が掲げる「甲子園の先にある挑戦」 合理的な取り組みで、真のアスリートへ

中島大輔
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わずか50分間の練習時間にもかかわらず、昨年にはプロ入り選手を生んだ武田高校。その取り組みを掘り下げる 【中島大輔】

「高校野球を飛び越えた本当の真のアスリートになれるだろうか。」――。

 広島県にある私立武田高校硬式野球部は6月9日、冒頭の一文で始まるツイートを投稿した。意味深長な文章は続く。

「高校野球を超える事がzebrasにできるだろうか。スポーツの価値を世の中に提示する事ができるだろうか。無理だろ。と言われてきた挑戦にこそストーリーがありドラマがある。この夏はそんな大会にしたい。」(以上、原文ママ)

 文武両道を実践するため、平日の放課後は50分の練習時間に限られる武田は「フィジカルとデータで高校野球に革命を起こす」と方針を掲げ、話題を集める新興校だ。昨年には右腕投手の谷岡楓太がオリックスから育成ドラフト2位で指名され、初のプロ野球選手を輩出した。今年はドラフト候補に挙がる投手の久保田大斗、外野手の重松マーティン春哉を擁し、夏の広島大会では初のベスト4進出を果たしている。

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「一人でやろうとした」監督が変わったきっかけ

岡嵜雄介監督(写真)は健大高崎・青柳監督にかけられた言葉で自らの方針を変えたという 【中島大輔】

 新幹線のJR東広島駅からタクシーで15分。緑豊かで曲がりくねった山道を走って到着すると、日本の強豪私学とは明らかに異なる風土を感じられた。

「練習時間の長さで語られたら、スポーツは発展しないと思います。『長く練習すればいい』という考え方を超えたい」

 そう言うと、岡嵜雄介監督は屈託のない笑みを浮かべた。

「僕らが勝ったり、良い選手を出したりすると、周りの人がスポーツに対して考えるきっかけになると思うんです。良いも、悪いも含めて。アスリートとして極めていくなかに甲子園がある。それが僕らの考え方です」

 現在、3学年で75人の部員が在籍する武田には、8人の指導者が常駐する。外部スタッフを含めれば合計15人。これほど指導者に恵まれた環境は、日本の高校にはなかなかない。

「最初は全部一人でやろうと思っていました」

 2015年に就任した当初、岡嵜監督はそう考えていた。当時の部員は2学年で18人しかいなかった。

 方針を変えるきっかけは翌年、広島県高野連の監督会の派遣事業で高崎健康福祉大学高崎(健大高崎)高校を訪れたことだ。
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著者プロフィール

1979年埼玉県生まれ。上智大学在学中からスポーツライター、編集者として活動。05年夏、セルティックの中村俊輔を追い掛けてスコットランドに渡り、4年間密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『プロ野球 FA宣言の闇』。2013年から中南米野球の取材を行い、2017年に上梓した『中南米野球はなぜ強いのか』(ともに亜紀書房)がミズノスポーツライター賞の優秀賞。その他の著書に『野球消滅』(新潮新書)と『人を育てる名監督の教え』(双葉社)がある。

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