連載:プロ野球 今シーズンに懸ける男たち

「熱い思い」が交錯するペナントレース 今シーズンに懸ける男が多い球団が躍進?

前田恵

大卒ルーキーの活躍に同い年・高卒5年目の心中は?

ソフトバンク・高橋純平は高卒5年目。同級生である大卒1年目の活躍にはやる気持ちもあるだろうが、「世代にこだわる必要はない」と語る 【写真は共同】

 ソフトバンク・高橋純平はプロ入り4年目の昨季、頭角を現し45試合に登板した。「一軍で自分のポジションを見つけ、定着したかった」と意気込んでいたが、今季は右肩炎症の影響もあり、悔しい二軍スタートになった。

 1997年生まれは高橋の他にも、オコエ瑠偉(東北楽天)、平沢大河(ロッテ)、小笠原慎之介(中日)など、甲子園を沸かせた逸材がそろう。高卒5年目といえば、同学年の大卒組が即戦力として入団する年。同じ97年生まれの森下暢仁(広島)、98年1月生まれの同学年・津森宥紀(ソフトバンク)が開幕一軍入りを果たし、共にプロ初勝利を挙げ、自身のポジションを築きつつある。

 前述の高卒組は皆6月末現在、二軍調整中。同級生の活躍を横目に、はやる気持ちもあるだろう。彼らの心中を察すると、取材で語ってくれた高橋純の言葉が余計、染みてくる。

「初めは“同期の選手が入ってくるまでに一軍に定着しなきゃ、4年早くプロにいるんだから”と思っていた。だけど、人それぞれ。世代にこだわる必要はないんです。プロは終わりが決まっていないんだから」――。

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移籍市場を盛り上げた楽天とロッテ

金銭トレードで楽天に加入した涌井(中央)。かつての同僚・岸(左)らとともに高め合う 【写真は共同】

 今季、最も注目されたのは楽天⇔ロッテ間の選手移籍だろう。今回はその移籍組の中から、涌井秀章(楽天)を取材した。プロ入り16年目の34歳、2度目の移籍となった涌井は言う。

「前回、西武からロッテに移籍したときとは内容が違う。あのときは周囲に期待され、気負いがあった。でも今回は金銭トレードだし、年齢も上のほうになっているから、あとは楽しむだけかな」

「楽しむ」といっても、気楽に“余生”を過ごすわけではない。同じ右腕の好敵手・岸孝之、則本昂大と「お互い高いレベルで野球をやっていきたい」と、涌井。新天地では2試合に先発し、既に2勝を挙げている。
 ロッテから楽天にFA移籍した鈴木大地は開幕戦で通算1000安打を達成すると、打率もぐんぐん上昇。古巣時代と変わらず、グラウンドで、ベンチで元気に声を出しチームプレーに徹する。

 鈴木の人的補償でロッテに移籍した小野郁は、連日リリーフで好投。FAで楽天からロッテに移った美馬学は、先発ローテーションで粘りの投球を見せている。

 移籍組で気がかりなのは、東京ヤクルトからソフトバンクに移籍したバレンティン。新型コロナの影響でキューバ勢の来日が遅れる中、開幕から4番に座るも、なかなか調子が上がらず。ただ、36歳の誕生日を迎えた7月2日の日本ハム戦で2本塁打をマーク。打順を下げ、守備でリズムを作らせるために左翼を守らせるなど、工夫をこらすベンチの策は実ったか。

今後の展望は?

 今回取材した5人のうち、涌井と戸郷が開幕2連勝を飾った。2人の活躍もあり楽天、巨人とも、出だしは好調。また、ロッテは、本連載で取り上げていない鳥谷、和田、美馬、小野といった「今シーズンに懸ける」新戦力がそれぞれの持ち場で機能し、開幕ダッシュを後押しした。

 多くの評論家が予想したように、セ・リーグは巨人が首位を走りそう。パ・リーグは2枚岩、3枚岩の巨大戦力を持つはずだったソフトバンクが、まさかのつまずき。補強に成功した楽天と、8連勝で流れに乗ったロッテがしばらく首位争いを続けるか。

(企画構成:株式会社スリーライト)

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著者プロフィール

1963年、兵庫県神戸市生まれ。上智大学在学中の85、86年、川崎球場でグラウンドガールを務める。卒業後、ベースボール・マガジン社で野球誌編集記者。91年シーズン限りで退社し、フリーライターに。野球、サッカーなど各種スポーツのほか、旅行、教育、犬関係も執筆。著書に『母たちのプロ野球』(中央公論新社)、『野球酒場』(ベースボール・マガジン社)ほか。編集協力に野村克也著『野村克也からの手紙』(ベースボール・マガジン社)ほか。豪州プロ野球リーグABLの取材歴は20年を超え、昨季よりABL公認でABL Japan公式サイト(http://abl-japan.com)を運営中。

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