大リーガーがSNS発信に力を入れる理由 70勝右腕バウアーの“親しみ”戦略とは?
映像制作会社を持ち、自ら撮影や編集も
インタビューに答えるバウアー。映像制作会社を持ち、撮影・編集・アップロードを自らこなす 【丹羽政善】
「編集の仕方を知らなかったら、撮ったものをそのままアップしていた。ピッチングフォームをスローモーションで撮るというアイデアは良かったと思うけど、固定カメラだから、カメラのスイッチを止めるために歩いている姿までスローモーションで撮れてしまう。だから、2分半のビデオをアップしても、自分が投げているのはそのうちの30秒ぐらいという感じだった」
おそらく、その映像が下記である。
「2013年だったかな。12年かな? ダルビッシュが投げている、いろいろな球種の映像を、一つに重ねた映像があった。これだ、と思った。自分も編集であれをやってみたいと思った(この映像については第5回で詳しく説明)。そのためには『Final Cut Pro(ファイナルカットプロ)』というソフトが必要だと知り、さっそく買って編集を学んだんだ」
今やバウアーはYouTubeの撮影、編集、アップロードまですべて一人でこなすようになり、突き詰める中で、「モメンタム」という自分の映像制作会社を持つまでになった。モメンタムではカメラマンなどを雇い、アスリートの本格的ドキュメンタリーを手掛ける。リハビリの様子などに長期で密着し、選手の日常に迫る。ときに取材対象本人が企画し、バウアーが中心となって制作するのだから、必然、内容が濃くなる。
それも結局は、「ファンにより親しみを感じてもらうための手段」とバウアーは言う。
「子供たちにしてみれば、選手らはスーパースター。でも、球場を離れれば選手も人間だし、そんな姿を見せることでよりファンは親近感を覚える。『あっ、彼も僕と同じでスケートボードが好きなんだ』っていう感じで」
それは、バウアー自身がプロに入った頃、感じたことだという。距離を感じていた選手らが、一緒になってみると、野球の世界では特別な存在でも、日常ではある意味、気さくなお兄ちゃんたち。それを知ると壁がなくなる。バウアーとしては、子供たちにもそうして親しみを持ってもらいたい。だからこそアスリートの日常を届けたい――。
アスリートの日常を届けるために
アスリートの日常を届けたいという思いから、発信を続け、投資も行うバウアー 【Getty Images】
「モメンタムではやはり、野球に偏ってしまう。でも、プレイヤーズTVはあらゆるスポーツのアスリートが対象。僕のような野球選手でもアイスホッケーや大学バスケットのファン、という人は多い。これからはそのプレイヤーズTVにアクセスすれば、いろんなアスリートの日常が見られるようになっていくと思う」
現在は、米国で発売されているサムスンのスマートTVの1コンテンツだが、今後、より多くの人が見られるように発展していくそうだ。日本でも見られるようになるかもしれないし、日本のアスリートが参加するような展開になるのかもしれない。
もっともそれで、バウアーがYouTubeによる発信を止めるわけではない。まもなくシーズンが始まるが、「開幕後は移動の機内の様子や、食事をするラウンジなどで選手がどんなふうに過ごしているか、そんな様子を撮影してアップしていくつもり」だそうだ。コロナ禍の影響で今年は大幅に取材が制限される。選手の個性が垣間見える映像などもおそらく限られる。そうした中では、貴重なものとなるのかもしれない。
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今回は5本のビデオを紹介。明日の第1回は、バウアーが2016年9月にイチローと対戦したときの全4打席を1球ごとに振り返る。日本のファン向けに本人が特別に編集したものだ。
イチローの攻略法。それが破られ、改めて知ったイチローのすごさについてバウアーが語っているが、このビデオだけでなく、今後紹介するものも見ると、気付くことがあるはず。
確かに、ファンとの接点という役割を意識し、次の世代に技術などを伝えようとしているわけだが、決してそれだけにとどまらない。
「野球は頭を使うスポーツ」
そう話したのはイチローだが、バウアーのビデオの数々は、まさにその通りであることを教えてくれる。
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