全米オープン開催決定に選手から賛否の声 反対派のキリオス「自分勝手」

内田暁

キリオス「僕がオーストラリアからアメリカに行く時は防護服が必要だし、帰国したら2週間の隔離になるっていうのに……」 【Getty Images】

 押し留めていたテニス界の本流が、一つの扉が開いたのを機に、堰(せき)を切ったように音を立てて流れ出す――。
 
 そう感じるほどの情報の波が、次の一言とともに、一気に世界を駆け巡った。

「US Open is Open――US(全米)オープンが開催される――!」

 アメリカ東海岸の6月17日、テニスの4大大会の一つである全米オープンの開催が、オンライン会見で高らかに宣言された。

 会場は例年通り、ニューヨーク市クイーンズ区のUSTAナショナルテニスセンター。開催時期も、当初の予定通り8月31日からの2週間。ただし予選は行われず、ダブルスはドローを縮小。観客は入れず、選手たちは空港近くのオフィシャルホテルと会場間に行動が規制されるという、従来のそれとは大きく趣を変えた大会となる。

移動を前提とするテニスのツアーシステム

 “ツアー”と呼ばれるテニスの大会群の美徳は、まさにその呼称に込められていると言えるだろう。毎週のように世界のいたる所で開催される大会を、あらゆる国の選手たちが転戦するのが、プロテニスの基本フォーマット。この流動性こそが競技のグローバル化と、全世界をマーケットにした商品価値の高騰を可能にしている。先日発表されたアメリカの経済誌『フォーブス』のアスリート長者番付で、全体の1位がロジャー・フェデラー、女子の1位は史上最高額を記録した大坂なおみであることも、その証左だろう。選手たちにとっては、“ツアー=旅”こそが日常だ。

 だが、人の移動規制が何よりの感染拡大防止となる新型コロナ禍にあっては、移動を大前提とするツアーシステムがテニスのアキレス腱となる。男子のプロツアーを運営するATP、女子のWTA、そして国際テニス連盟(ITF)は、WHOがパンデミック宣言を発令した3月中旬に、当面のツアー中断を発表。その後は、5月末に開催予定の全仏オープンが9月末に延期、続いて伝統と歴史を誇るウィンブルドンが、戦後初の中止を早々に表明する。ツアーの中断期間も日を追うごとに伸び、5月の段階で7月の再開はないことが決まっていた。

 そのような情勢下にあり、8月末にニューヨークで開催予定の全米オープンが行われるか否かに、注目が集まっていた。

 はたして下された決断は、冒頭に触れたように、無観客および規模を縮小しての開催。そして全米オープン開催の正式発表を号砲とし、ATPおよびWTAの8月以降のスケジュールが公開された。延期となっていた全仏オープンは、9月21日に予選から開幕。日本開催予定だった大会に関しては、女子の花キューピットオープンおよび男子の楽天オープンは中止に。東レパンパシフィックオープンは、従来の9月末からスケジュールを後ろ倒しにし、11月2日から7日で開催される予定だ。

全米OP開催決定に、選手たちはさまざまな反応

セリーナ・ウィリアムズ「ニューヨークに戻るのが待ちきれない!」 【Getty Images】

 この急激な動きに対する、選手たちの反応はさまざまだ。23のグランドスラムタイトルを誇るセリーナ・ウィリアムズは、「ニューヨークに戻るのが待ちきれない!」と、ビデオメッセージで全米オープン出場を表明。アメリカを拠点とする錦織圭や大坂なおみらも、出場に前向きだと報じられている。

 一方で、アメリカ国外の選手たちからは、批判や懐疑の声が上がっているのも事実。取り分けオーストラリアのニック・キリオスは、反対派の急先鋒だ。

「USに住んでる人たちは、もちろんUSオープン開幕に前向きだろう。“自分勝手”。僕がオーストラリアからアメリカに行く時は防護服が必要だし、帰国したら2週間の隔離になるっていうのに」キリオスはツイッターで、そのように大会開催を糾弾した。



 また、同じくオーストラリア人で女子1位のアシュリー・バーティも、「アメリカには行かないだろう」と地元メディアの取材に応答。女子2位のシモナ・ハレプは、「状況を見ながら決める」としながらも、現時点では不参加の意志を示している。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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