全米オープン開催決定に選手から賛否の声 反対派のキリオス「自分勝手」

内田暁

日本国内の選手たちの反応は……

内山靖崇「正直想定外でした。無理だと思っていたので、再開を急いでる感じがしました」 【Getty Images】

 日本国内の選手たちも、その反応はさまざまだ。

 昨年末にランキングトップ100入りを果たし、今年は初の全米オープン本戦出場がほぼ確定していた内山靖崇は、開催について「正直想定外でした。無理だと思っていたので、再開を急いでる感じがしました」と驚きを隠さない。また、ツアー再開については「良いこと」と歓迎しながらも、「世界中の多くの人が、ニューヨークが安全だとは思っていない。ツアー中に隔離されるかもしれないし、欧米から帰国した時に身近な人たちに余計な心配を与えるかと思うと、複雑な気持ちです」と揺れる胸の内を明かした。

 一方で、ニューヨーク生まれのダニエル太郎は、開催は「驚きではなかった」と言う。アメリカでの新型コロナの惨状を把握しつつも、同時に「グランドスラムはもの凄いパワーを持っている。ウィンブルドンと違い、全米は(中止時の金銭的保証がなされる)保険に入っていないので、少しでも可能性があれば開催する方向に持っていくだろうと考えていました」と冷静に分析した。

 現地での行動規制についも、「精神的にはキツいですが、新しく難しい状況にもアダプトしながら続けていかないといけない。そこは全然耐えられる」と達観した様子。

「ツアーが戻ってくるのは、正直嬉しいです。テニスもいい感じに仕上がっているので、それを使える場があるのは嬉しい」と、これまでの取り組みの成果を発揮できることを、心待ちにしている様子だ。

 ただ、内山とダニエルの両選手が声をそろえたのが、下部大会の状況への憂慮である。下部大会は資金力も限られ、開催地も大都市以外が多くなる。「小さい大会はウイルス対策にお金を掛ける余裕もない。ATPとグランドスラムだけ先に戻るシステムになってしまうと、どんどん不公平になる可能性も大きいです」と、ダニエルもその点に関しては疑問符を掲げた。

 究極のグローバリズムを体現してきたテニスツアーの潮流が、コロナ禍により、現在大きな分水嶺(ぶんすいれい)に差し掛かっている。ただこの先どこに向かうにしても、それは動きの中でしか見極めることはできないだろう。

 開拓者の国アメリカで、手探りのまま、旅は再開する。

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著者プロフィール

テニス雑誌『スマッシュ』などのメディアに執筆するフリーライター。2006年頃からグランドスラム等の主要大会の取材を始め、08年デルレイビーチ国際選手権での錦織圭ツアー初優勝にも立ち合う。近著に、錦織圭の幼少期からの足跡を綴ったノンフィクション『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)や、アスリートの肉体及び精神の動きを神経科学(脳科学)の知見から解説する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。京都在住。

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