連載:逆境に立ち向かう球児たち

大切なことは「高校野球をどう終えるか」 仙台育英・須江監督の理念に迫る

大利実

今の高校3年生は「とてつもないエネルギーを持って…」

野球が満足にできない状況の中で、須江監督は「『終わり方』がものすごく大事になる」と語る 【写真は共同】

 就任当初、理念とともに掲げたのが、チームスローガンである。

『日本一からの招待』。ふるまい、行動、技術、体力、知識……全ての面において日本一にふさわしいステージに立てたとき、「日本一から招かれる」という発想だ。

「さまざまな要素がありますが、その1つに『日本一激しいメンバー争い』があります。メンバーを保証された選手は誰もいない。冬も紅白戦を行い、数字を取り、データをもとにしながらメンバーを決めています」

 休校期間中の今、選手たちが何をやっているかはSlackなどでチェックしているが、取り組みの質までは見ていない。それは『日本一からの招待』のもと、自主練習であっても手を抜くことなく、本気で取り組んでいると信じているからだ。

 その一方で「メンバー選考の時間がない」という現実もある。たとえ6月から再開となっても、夏のメンバー提出まで数週間しかない。

「5月1日のZoomミーティングで、彼らには伝えました。今の社会情勢で、『夏の大会の開催はどう思う?』という話もしています」

 あえて、この件には触れない監督もいるが、須江監督は話をしている。

「センバツのときも2月の時点で『センバツは厳しいかもしれない。もし中止になった場合は、夏に向かってどういう計画で進めていくか、考えてほしい』という話もしました。社会情勢を知らないで、野球をすることはできませんから。僕自身は、センバツ開催のときと中止のときのスケジュールを用意して、中止が決まった翌々日には夏までのスケジュールを彼らに渡しています」

「こうなったら、こう動く」というプランを、常に提示できる準備をしている。今は夏の大会があるときとないときの2パターンで、スケジュールを練る。もし夏の大会がなかったときには、選手や保護者の想いに耳を傾けたうえで、何らかの形で試合を開催する考えを持つ。

「何をやるにしても、『終わり方』はものすごく大事です。高校野球をどう終えるのか。大人ができることは、大人が準備してあげたいと考えています」

 野球が満足にできない状況は、須江監督にとっては東日本大震災に続く経験となる。監督就任前の不祥事も加えれば、3度目だ。

「その都度感じるのは、子どもたちが、大人の希望、社会の希望であるということです。彼らはやがて、社会に出て、人を動かす立場になり、親として家族を守る立場にもなります。教員になる生徒もいるかもしれません。起きた現実から何を学び、どう次に生かしていけるか。今の高校3年生は、ものすごい経験をしていると思います。とてつもないエネルギーを持って、社会に出ていく。すごいことを成し遂げるかもしれません」

 そのための土台作りが今である。嘆いても、悲しんでも、現状は変わらない。理念、そして目標を実現するために、日々を大切に過ごしていく。

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著者プロフィール

1977年生まれ、横浜市出身。大学卒業後、スポーツライター事務所を経て独立。中学軟式野球、高校野球を中心に取材・執筆。著書に『高校野球界の監督がここまで明かす! 走塁技術の極意』『中学野球部の教科書』(カンゼン)、構成本に『仙台育英 日本一からの招待』(須江航著/カンゼン)などがある。現在ベースボール専門メディアFull-Count(https://full-count.jp/)で、神奈川の高校野球にまつわるコラムを随時執筆中。

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