酒井宏樹、苦難のシーズンの先に 故障や新環境適応の困難乗り越えCLへ
進行中の試行錯誤。トーバンの復帰がカギとなるか
逆風が顕著になりつつあった2月、これは新年の逆境ではなく、シーズン頭からの問題だと酒井自ら指摘し、「シーズン出だしからずっとそう。このシステムは、本当に難しい。難しいと感じつつ、ずっとごまかしごまかしやっていたが、最近になってメディアがやっと気づいた感じ」と、苦笑しながら話していた。
ガルシア前監督の指揮下の昨シーズン、マルセイユのシステムは4-2-3-1か、ある種の4-4-2で落ち着いていた。このシステムでは、酒井と中盤の選手の距離がより近くなるため、他の選手にボールを預けながらサイドを上がりやすくなる。一方、ビラスボアス監督のシステムは一貫して、逆三角形の3ボランチを使った4-3-3。「このシステムだと、近くに人がいないので、自分のドリブルで1、2人抜いて上がらないといけない。だから、ブナ(サール)やジョーダン(アマビ)のような(独力でドリブル突破をすることを好む)サイドバックの方が、適任と言える」と酒井は冷静に分析していた。
そして恐らくこれには、ここ数年、右サイドでともに攻撃を築いてきた、トーバンの不在も関係している。年月をかけ、酒井とトーバンは、攻撃の建設から守備での助け合いに至るまで、特別な協力関係を築いてきた。しかし、足首の手術に踏み切ったトーバンの回復にかかる時間は、当初の予想だった3カ月から6カ月に延び、3月初頭に今季初めて、試合のピッチを踏んでいる。
実際、今季に酒井の攻撃への貢献度が減ったことを記者に指摘されたビラスボアス監督は、まずは自分がサイドを絞めるよう頼んでいるためでもある、とした上で、「彼はピッチ上でトーバンと特別な関係を築いてきたので、そのせいもあるのだろう。それについては彼とも話した」と漏らしている。
今季にトーバンの位置に入ったサールやラドニッチが、独力で一気に上がろうとするタイプだとしたら、トーバンはより、他の選手とのパス交換を交えつつ上がっていくタイプ。トーバンも復帰となった今、酒井が体調を万全にできれば、来季のマルセイユに、今季にはなかった武器が戻ってくるかもしれない。
試練のシーズン終わりに朗報が
『常に100%の頑張りを期待できる、頼れる駒』としての立ち位置を築いた過去2年と比べ、故障にたびたび道を遮られ、プレー面でも試行錯誤した今季は、酒井にとって試練のシーズンだったかもしれない。酒井は19-20シーズンを振り返り、「多くの試合に出させてもらったが、今季は1シーズンを通して監督やサポーターにとって絶対的な選手でいられなかった。それが、すごく残念」と悔しさも口にしていた。
しかし、5月5日、仏『レキップ』紙が電子版上で行った、ポジション別今季ベスト選手の投票で、同紙が選んだ右サイドバック4人の候補の中には、酒井の名があった。同紙は酒井を「ここ4年、リーグ・アンで確かな質を保証し続けている選手」とし、「今季もまた、安定性のある、堅固な働きを見せた。攻撃面では十分に輝けなかったが、守備面では、非の打ちどころがない堅固さを見せた頻度が、最も高かったSBだった」と評した。上記の人選には印象だけでなく、奪回したボール数やパスの成功率など、統計も考慮されている。
ときに無謀に攻撃に出る派手なサイドバックがもてはやされがちなフランスで、サッカーの識者に、守備の安全性を保証できた頻度という、地味だが大切な仕事を見てもらえていたことは、酒井にとって、良いコンソレーションとなったのではないだろうか。
クラブがファイナンシャル・フェアプレー規則を無事クリアできれば、マルセイユと酒井は、来季、夢だったCLに挑むことになる。「勝ち取ったというより、権利をもらえたという感じ」と喜びの表現は控えたが、ついにたどりついた欧州最高の舞台への歩みは、もう始まっている。