留年して臨んだ、リベンジの箱根駅伝 人間は覚悟が決まると大きく変わる
第7回
留年、そして父との死別を経て、五郎谷俊は1年後の第92回箱根駅伝で、これまでと違った走りを見せた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】
2015年の第91回大会では、5区に初出場の4年生・五郎谷俊を起用しました。上りが得意で、箱根の山上りに懸けてきた選手でしたが、レース中に低血糖から脱水症状になりました。12km地点の小涌園を過ぎてから、「記憶がない」と振り返っていたほどです。
原因は食事でした。五郎谷はもともと緊張しやすい性格なので、食事を満足に摂っておらず、レース中に熱量不足を起こしてしまいました。
加えて、服装の調節も重要です。5区のスタート地点となる小田原中継所は穏やかな暖かさですが、走っていくうちに箱根山中でぐっと気温が下がります。五郎谷はそれを心配して、着込んでしまったのです。汗をかいて、終盤に風が吹くと、それで体を冷やしてしまいます。
5区は低血糖や低体温症、脱水症状に陥る要素を孕んだ区間でもあります。山中を走る選手のユニフォーム姿を見ていると、半袖、長袖、またはランニングシャツにアームウォーマーなど様々です。体質がそれぞれ異なるので当然ですが、自身の体とその日の気候に合った服装を選ぶことが第一です。
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しかし、五郎谷は自信のなさからキョロキョロしてしまいがちなので、特別にサングラスの着用を許可しました。サングラスを掛ければ、周囲の視線が気にならないだろうと考えました。
「大丈夫です。これなら周りが気になりません」
五郎谷が大会前、実際にサングラスを掛けてこう言ったので、ひとまず私も安心しました。ところが、いざレースが始まると、私が運営管理車から声を掛けてもまったく聞こえていない様子でした。
「聞こえているか? 聞こえたら、手を挙げろ」
そう呼び掛けましたが、手を挙げません。緊張で私の声が耳に入らなかったようです。レース後半、低血糖で意識が遠のいていくと、さらに反応しなくなりました。こうなると、もう見守ることしかできませんでした。
五郎谷は区間11位と苦戦。神野大地選手の快走で往路優勝した青山学院大とは6分49秒差の3位でゴールしました。
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