「その1秒をけずりだせ」 東洋大の伝統に込めた思い
第3回
「その1秒をけずりだせ」の文字を左腕に書いて走る服部勇馬 【写真:アフロスポーツ】
早稲田大に負けた2011年の箱根駅伝の10日後、私は新4年生になる柏原竜二をキャプテンに指名しました。
当時、東洋大ではキャプテンが箱根駅伝を走れないというジンクスが5年も続いており、それを断ち切るためにも、柏原のような強いキャプテンシーが欲しかったのです。
闘将として、先陣を切ってほしい。私は柏原に言いました。
「柏原に任せる」
すると彼は、「監督に言われたからにはやります。言葉だけでなく、走りや行動でみんなを引っ張ります」と答えてくれました。もし、箱根駅伝に勝っていたら、柏原は断ってきたかもしれません。負けた後だからこそ、自分が先頭に立って引っ張る覚悟があったのでしょう。
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「21秒」は1人でも何とかできる差です。でも、「俺が何とかできた」ではなく、「1秒をみんなで背負う」という思いから、「その1秒をけずりだせ」が誕生しました。
走った10人だけではない。指揮した私はもちろん、サポートにまわった部員にも背負うべき責任がありました。そこで、「自分たちから何かできないか、生み出せないか」という意味で「けずる」という表現にしました。初めは「1秒をけずりだせ」でしたが、後から「その」を前に付けました。
「その」に込められた思いもあります。
人と場面を「その」に当てはめてみる。人ならばライバル、お世話になっている人、または誰かに勝利を届けたいとイメージするのもいいでしょう。場面ならば勝ったシーン、負けたシーン、思い出のシーンなど。「こうなりたい」と想像しながら、それぞれの思いを込めようという意味で、「その」を入れました。
思いを胸に挑んだ2012年の第88回箱根駅伝で王座奪還を果たし、「その1秒をけずりだせ」が東洋大らしさ、そしてチームカラーである鉄紺の走りにつながっていきました。
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