連載:コロナ禍の散歩&ランを安全に行うために

コロナ禍の散歩やランニング、注意点は? やりすぎはリスクも……専門家が解説

高島三幸
 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、全国で不要不急の外出自粛が求められている。一方で、散歩や軽めのランニングなどの運動をおこなうことは健康維持に欠かせない。コロナ禍でどのように行うのがよいのか。運動頻度や時間、外で体を動かす際の注意点といった素朴な疑問について、公衆衛生学を専門とし、健康と運動に詳しい東京医科大学主任教授の井上茂先生に答えてもらった。
 なお、本稿は取材時点(4月27日〜5月1日)での社会状況に基づいて作成した。

運動中も雑談中も相手と距離を取って

コロナ禍の散歩やランニングで注意すべき点とは? 公衆衛生学が専門の井上茂先生が解説する 【写真:つのだよしお/アフロ】

Q.健康を維持するために、散歩やジョギングは毎日どれくらい行うと良いでしょうか?
A.日常生活で体を全く動かさない人ならば、散歩は60分、ランニングは20〜30分が目安。

 厚生労働省は、健康維持のために1日60分以上、身体活動を行う(体を動かす)ことを推奨しています。高い目標と感じるかもしれませんが、身体活動には運動だけでなく、日常生活での活動(通勤や買い物等での歩行、掃除、庭仕事など)も含まれています。日常生活で体を全く動かさない人ならば、散歩なら60分、ランニングなら20〜30分程度が目安になります。ただし、「60分間、継続して運動する」必要はありません。1日の合計でよいので、朝晩の2回に分けて散歩するとか、仕事や家事、育児のすき間時間に、5分や10分といった短時間で体を動かすといいでしょう。日常生活での活動が多い人は、その分、60分よりも短い時間で大丈夫です。外出自粛が求められる中で、目標達成が難しい方には、10分でも運動すると、しないよりもはるかに健康効果があることを知ってほしいと思います。

 家で過ごす時間が長くなるとストレスが溜まりがちになるので、運動することでリフレッシュ効果が期待できます。うつ症状を予防し、よく眠れるようにもなるでしょう。

Q.散歩やジョギングをするとき、必ずマスクを着けなければいけないでしょうか?
A.他の人がいるところでは着けましょう。

 運動中は吐く息の量が増えてきます。タバコの煙をイメージすると分かりやすいですが、吐いた煙は周りに広がりますよね。走ったり歩いたりして吐いた息は、周囲にいるランナーや歩いている人が吸い込む可能性があります。コロナウイルスに感染しても無症状の人は多く、当人も気づかないまま歩いたり、走ったりしているケースは否めません。感染予防対策の点から言えば、マスクで口や鼻を覆ってランニングやウォーキングをした方が無難だと言えます。息を弾ませたランナーがマスクも着けずに、息をハァハァさせながら、高齢者や子どもの脇を通り過ぎていくといった状況は避ける必要があります。ただし、明らかに周囲に人がいない場合には、マスクを着ける必要はありません。

 感染予防という意味で、いくつかの注意事項があります。散歩やランニング中は手すりや公園の遊具などに触らず、目鼻口にも触らないようにしましょう。特に幼いお子さんと一緒に散歩などをされるときは、お子さんが顔を触らないように気をつけてあげてください。遊具等に触ったときにはその場でアルコール消毒をするのが一番良いのですが、感染が広がっている今の時期は頻繁に手洗いを心がけるのが良いと思います。もちろん帰宅後はせっけんでしっかりと手を洗う、あるいは、もしアルコール消毒薬がある場合には、手に十分つけて消毒するといいでしょう。

Q.マスクの着用以外に気をつける点は?
A.人の少ない時間帯や場所を選び、両手を広げた距離を取る。

 皆さんの日常生活に差し障りない時間帯で、できるだけ人の少ない時間帯や場所を選んで歩いたり走ったりしてください。人との距離は、吐く息の量やその時の風向きや強さなどで一概に何メートルとは言えませんが、吐く息の量が比較的少ない散歩なら、両手を広げてぶつからない程度の距離を目安にし、運動が激しくなるほど距離を広げた方がいいでしょう。

 一人で行うことがおすすめですが、グループで歩いたり走ったりしている人は、大人数よりも2〜3人といった少人数での行動に留めることをおすすめします。ランナーが吐いた息を、後方のランナーが吸う可能性もあるので、道幅に余裕があれば、縦並びよりも横並びの方がいいかもしれません。散歩やランニング後の雑談なども、相手との距離を保つように努めましょう。

最低限の運動量を確保して体調管理を

井上先生は注意点の1つに、人の少ない時間帯や場所を選ぶことを挙げた 【スポーツナビ】

Q.運動して疲れると、免疫力が下がってしまうイメージがあるのですが……。
A.強度の高い運動は、一時的に免疫力が低下する。やり過ぎに注意。

 今まで運動をしていなかった人が急にランニングを始めたり、普段よりも激しい運動をしたりすると、一時的に免疫力が低下します。運動による筋肉痛なのか、風邪や新型コロナウイルスによる筋肉痛なのか分からないといったことも起こりうるので、今の状況下ではやりすぎない方が良いと思います。これから運動を始める人は、普段の運動量から考え、ウォーキングや短い距離をゆっくり走るといった軽めの運動から始めてください。

 3食バランスよく食べて、入浴して体を温め、しっかり睡眠を取るといった規則正しい生活が、疲れた体を回復させ、免疫力アップにつながります。


Q.外で散歩やランニングをすることに対して、不安もあります。
A.家でできる運動もある。

 家でも運動は行えます。可能なら筋トレ、柔軟運動(ストレッチ)、有酸素運動をバランスよくできればベストです。例えば、子どもからお年寄りまでできる「ラジオ体操」はおすすめで、真剣に取り組むと結構な運動量になります。筋トレやヨガ、ストレッチなどの動画配信サービスもウェブにたくさん上がっており、それらを利用するのもおすすめです。掃除機をかけたり、洗濯物を干したりする家事も運動になります。

 有酸素運動を家でしたい人は、家の中にある段差を見つけて上り下りする踏み台昇降運動を行ったり、階段を上り下りしたりするのも、一つの手だと思います。

 外出自粛が要請され、「外に出てはいけない」「散歩をしてはいけない」と思っている人はたくさんいると思います。もちろん不要不急の外出を控えることは感染拡大予防として非常に大切ですが、家にこもり続けて健康を害してしまうのも問題です。人がいない場所や時間帯を選んでの散歩などは問題ないので、最低限の運動量を確保して体調を管理し、上手にストレスを解消しましょう。

プロフィール

井上 茂(いのうえ しげる)
医師、医学博士。東京医科大学公衆衛生学分野主任教授。
1991年東北大学医学部卒業後、臨床医として5年勤務の後、東京医科大学大学院医学研究科で衛生学公衆衛生学を専攻。東京医科大学で公衆衛生学を受け持ち、2012年から現職。生活習慣病対策、特に「身体活動・運動」と「職域のメンタルヘルス」を主なテーマとして研究している。
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著者プロフィール

ビジネスの視点からスポーツを分析する記事を得意とする。アスリートの思考やメンタル面に興味があり、取材活動を行う。日経Gooday「有森裕子の『Coolランニング』」、日経ビジネスオンラインの連載「『世界で勝てる人』を育てる〜平井伯昌の流儀」などの執筆を担当。元陸上競技短距離選手。主な実績は、日本陸上競技選手権大会200m5位、日本陸上競技選手権リレー競技大会4×100mリレー優勝。

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