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川内優輝に聞くコロナ禍のランナーの心得
「本当に正しい情報かを考えて行動を」
新型コロナの影響下、川内優輝が電話取材で今の思いを語った。写真は2月の香川丸亀国際ハーフマラソンの時のもの
新型コロナの影響下、川内優輝が電話取材で今の思いを語った。写真は2月の香川丸亀国際ハーフマラソンの時のもの【栗原正夫】

 新型コロナウイルスの感染拡大は、トップアスリートだけでなく市民ランナーにも大きな打撃を与えている。マラソン大会や練習会の中止だけでなく、時にランニング中に呼吸が大きくなることで周囲へ飛沫(ひまつ)を浴びせる可能性が指摘されるなど、その影響は広がってきている。ランナーのなかにも、走りながら肩身が狭くなってきたと感じてきている方がいるかもしれない。


 そこで昨年4月にプロへ転向したものの、長く公務員として勤務しながら“市民ランナーの代表”としてマラソン界の顔となってきた川内優輝選手(あいおいニッセイ同和損保)に電話インタビューを実施。コロナ禍でのトレーニング状況や走る際の注意点、今後に向けての思いなどを聞いた。(取材日:4月27日)

今走るうえで大事なのはソーシャルディスタンス

――まず、現在のトレーニング状況を教えてください。


 いまは(普段通っていた)競技場が閉鎖されてしまっています。道幅の広い河川敷などを選び、追い込むような練習を抑えながら、走行距離だけは保ちつつ、競技というよりは体力維持と健康を目的にランニングをしています。(緊急事態宣言が出て)競技場が閉鎖になった当初はランニングコースのある公園などへ行っていたのですが、一部の公園はランナーや散歩をされている方、自転車を乗っている方も増えてきており、3密(密閉、密集、密接)とまでは言えないものの、さまざまなリスクがあると思い避けています。たとえば、人混みの公園を何周もグルグルと走っていれば、ソーシャルディスタンス(社会的距離)は保てないですからね。


――屋外でランニングする中、コロナに感染しない、感染させないうえで、特に気をつけていることはありますか。


 集団で練習をしないことは当然、基本的には周りの人と約2メートルのソーシャルディスタンスを保つことを意識しています。もちろん、自宅から河川敷までの間には信号もありますし、道幅が狭くソーシャルディスタンスを保てない場合も出てきますので、そこに行くまでは必ずマスクを着用しています。一部でソーシャルディスタンスを保たず、マスクも着けずに走っているマナーの悪いランナーがいるためか、最近はランナーへの風当たりが強くなってきているように感じますが、ランニング時のマスク着用がエチケットというか、必ずしなければならないモノになってしまっている風潮は少し行き過ぎな気がします。例えば、マスクをしているからといって至近距離で密集してしまっていいわけではないですからね。大事なのはソーシャルディスタンスで、まずは人と人との距離をしっかり保つことが重要だと思っています。

――ソーシャルディスタンスについては最近オランダとベルギーの研究者が合同で「運動時の飛沫感染を回避するために約10メートルの間隔が必要」との論文が出されたことを受けて、日本でもそうした距離を確保することが必要では、との声も上がっています。


 確かにそうした論文が出されましたが、私が知る限りあくまでそれは中間報告というか、正しく実証されたものではないと聞いています。私はいま、SNSを通じて世界各国のランニングの状況について調べていて、それをTwitterでも公開していますが、その論文に基づき新たな対策をとったという情報はいっさい聞いていません(※編注:フランスのスポーツ省は4月30日、外出制限が5月11日に解除された際に、ランニングやサイクリングにおいて、少なくとも10メートルの距離を取るべきとの方針を示している)。基本的には多くの国で、健康のための屋外でのランニングや散歩は認められていますし、ランニング時に10メートルのソーシャルディスタンスを求められたとすれば、もはや都市部でランニングすることは無理ですよね。現状は国際的にも2メートルのソーシャルディスタンスをということになっていますし、それが保てないところでマスク着用の配慮が必要とのことで、意識する順番が逆になるのもどうかなと思っています。


「約10メートルの間隔が必要」との論文が出されたあとに、日本でも公的な機関が画像などを用いて紹介していたことは知っていますが、指摘を受けて即日削除されたものもあります。いまはネット社会で、何か情報が出れば著名人の方もSNSなどで反応しますし、1度出された情報はその後修正や削除されたとしても、そのまま拡散され続けてしまいますので、怖さを感じます。


――川内選手も時に情報を発信する立場になります。


 だから気を使います。「10メートルの論文」が出た時も、もし本当なら無視できないと思いました。ただ、数日間自分なりに調べたうえで、それについては拡散しない方がいいと判断しました。もちろん、私を含め、人はどうしても自分に都合のいい情報であれば拡散し、そうでなければ拡散しないという風になりがちです。あの新聞に書いてあった、あの著名な方が言っていたとなれば信じてしまうのも理解できますが、一人一人が発信された情報をすべて鵜呑みにするのではなく、それが本当に正しい情報かどうかをしっかり考えて行動することが求められているのかなと思います。

世界のランニング情報まとめを作った理由

国内外のレースを数多く転戦してきた川内だが、3月のびわ湖毎日マラソンを最後にレースに参加できない状況が続いている
国内外のレースを数多く転戦してきた川内だが、3月のびわ湖毎日マラソンを最後にレースに参加できない状況が続いている【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

――先ほど話に出た、Twitterに上げている「世界のランニング情報」はどういうキッカケで作ろうと思ったのですか。


 最初は私自身、考えが甘くてコロナに対してそこまで危機感を持っていなかったんです。正直、大好きなマラソン大会が中止になったうえに、競技場まで閉鎖する必要はないんじゃないかと不満の方が強かったり。そんな中、日々ニュースを見ていて東京五輪の開催をめぐる報道や、例えばイタリアのベネチアがロックダウン(都市封鎖)になったとか断片的な情報はあっても、一般市民の方が知りたい身近な情報が少ないように感じました。そこで、せっかく海外のランナーとSNSでつながっているなら、日本の状況を知らせたうえで、海外のランナーにもそれぞれの国の状況について聞いてみようと思ったんです。そうしたら予想以上の反響があり、1日もたたない間に30カ国以上の方から情報提供がありました。


 例えば、アルゼンチンやペルーなど外出が禁止されている国があった一方で、アメリカやイギリスなど、約2メートルのソーシャルディスタンスを取っていれば運動は奨励されている国も多い。エリート選手向けの情報よりも、多くの人にとって、それこそ知りたい情報ですよね。であれば、寝る時間も削って大急ぎで作らなければと思ったんです。


 どう伝えるかは考えました。言語の問題もありますし、一番分かりやすいのは表かなと思い、項目を絞った結果が私のTwitterに固定ツイートした“あれ”です。結果的には世界陸連からもリツイートされましたし、やはり陸上界においてもアスリート向けの情報に偏り、日常のランニングやエクササイズの情報が抜け落ちていたのかなと思います。


――ランナーの参考になれば、との思いからですね。


 そうです。例えばロックダウンになっている国でも、約2メートルのソーシャルディスタンスを保てばランニングが可能な国は多いんです。そこにどんな科学的な根拠があるのかと言われたら困ってしまいますが、いちおう世界の多くの国がそうした線引きをしているということは、1つ大事な情報かなと。もちろん、私の考えを人に押し付けようとは思っていませんし、あくまで集計したデータを紹介しているということです。だから海外は海外、日本は日本だからと言われてしまえば返す言葉はありません。

栗原正夫

1974年生まれ。大学卒業後、映像、ITメディアでスポーツにかかわり、フリーランスに。サッカーほか、国内外問わずスポーツ関連のインタビューやレポート記事を週刊誌、スポーツ誌、WEBなどに寄稿。サッカーW杯は98年から、欧州選手権は2000年から、夏季五輪は04年から、すべて現地観戦、取材。これまでに約60カ国を取材で訪問している

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